2 「…赫、蒼、出て来ていいよ」 雪無の言葉に石から姿を現した二匹は背伸びをしながら彼女に擦り寄る。 そんな二匹を抱き上げて自室へと歩を進めた。 『雪無、どうしたの?元気が無いわね』 『やっぱりあいつらに何かされたのか!』 「わ、私…初めて男性に抱き留められちゃった」 『『は?』』 無表情だった顔を真っ赤に染め自室に辿り着いた雪無は二匹を抱えてベッドへ飛び込んだ。 勿論潰れないように背中から飛んだ彼女は灯りのついたライトを見つめる。 二匹揃って声を上げるがそれは届いていないのか、手を放した雪無は思い出したのか自分の頬を両手で覆う。 「態勢を崩したなんて恥ずかしい」 『そこかよ』 『相変わらずズレてるわよね…』 予想外な主の反応に二匹はため息をついて両脇へ陣取るように座りため息をついた。 そんな様子も気にしていないのか一頻り恥ずかしがった後、鞄から鳴り響く着信音に気付きいそいそと携帯を取り出す。 着信相手は愈史郎と表示されている。 「もしもし」 『遅い』 「ごめんなさい」 電話を取ると不機嫌を隠しもしない声が聞こえてすかさず謝る。 愈史郎という珠世の部下である彼はいつもこんな感じだ。 「きちんと退治しましたよ」 『とっくにそんなもの確認済みだ。俺が言いたいのはお前の連絡が遅いせいで珠世様がいらぬ心配をされていたと言う事だ!』 「あ、なるほど」 『なるほどじゃない!』 電話口から聞こえる怒鳴り声にそっと携帯を耳から遠ざける雪無。 彼は普段頭のキレる若者ではあるが、どうも珠世絡みになるとIQ3くらいなのではないだろうかというレベルで単純化してしまう。 実際珠世に会った事がある雪無も息を呑むような美しさであったから、愈史郎がこんなにも心を寄せてしまう気持ちは同性ながらも頷けた。 「珠世さんにはごめんなさいとお伝えして下さい」 『珠世様と呼べ!』 「でも珠世さんはそれを望んでいません」 『流石は珠世様。まるで天女の様に広いお心をお持ちだ』 「あの、お風呂入るので切ってもいいですか」 面倒くさそうな独り言が始まりそうだと思った雪無は電話を切るボタンを押そうとするが、それは失敗に終わってしまった。 『おい!切ったら今すぐお前の家に行くからな!』 「ではご用件をお話下さい」 『くそっ、留守電の様な対応をしやがって…まぁいい!お前、鬼殺隊に会ったんだろう』 苛立ったように舌打ちをした愈史郎はこれ以上苛ついても仕方が無いと思ったのか要件を話し始めた。 鬼殺隊という名前に聞き覚えはないが、さっきの状況的にきっと冨岡達のことだろうと察した雪無は愈史郎がその姿を見えないにも関わらず頷いてしまう。 『あいつらは非公式の組織だがあそこのトップと珠世様は繋がっている。変に構わなくていいが、もし使えそうであれば上手く使えよ』 「使うって、基本私は一人で動きたいんですが」 『お前はどんくさいからな。多少ヘマをしてもあいつらなら尻を拭うことくらいの実力は持ってる』 「ところで鬼殺隊とはどういう組織なのですか」 まるで鬼殺隊の実力を知っているかのような愈史郎に思わず首を傾げ、疑問に思ったことを投げ掛ける。 『一度しか説明しないからよく聞いておけよ。柱と呼ばれる数人の剣士は妖怪を切れる刀を所持してる。お前の祓いの銃と似たような物だと思えばいい』 「なるほど」 『しかしあいつらは切る事しか出来ない。実力はあるが根本的解決には至らないと言う事だ』 「だから瘴気もそのままだったんですね」 『瘴気は全て放出すれば妖怪達は消えるがそれまでに時間も掛かる。だがお前の術があるのならその場に居る一般人が吸う可能性を0に出来るだろう』 「えぇ」 『お前は鈍臭いから鬼を弱らせるのはあいつらに任せて、最後の浄化はお前がやれば効率的だろ』 「そうですね」 『相変わらず反応の薄い女だな…兎に角下手な事は言わなくていい。お前はあいつらを上手く利用しろって事だ。分かったな?』 疑問符を付けている割には随分と強制力のある言葉だなと思いながら返事をすると、その答えに満足したのか愈史郎は分かればいいと言って通話を切った。 随分と一方的であったがいつもの事だと思った雪無は携帯を充電器に差しベッドの上でいつの間にか眠っていた二匹の頭を撫で風呂へ向かう。 「それにしても鬼殺隊って随分とすごい名前だなぁ。先生達の格好も凄いかっこよかったし明日出来たら聞いてみよう」 一人や二匹の前では彼女は饒舌であり、普通の高校生と何一つ変わらないただの女子高生であった。 今も三人の姿を思い返しては頬を染めながら風呂へ小走りで向かう。 「私も巫女服じゃなくてスーツだったらかっこいいかも」 そんな事を呟きながら。 戻 |