「善逸なんか嫌いだ!」

「俺だって嫌いだ!」


何で、あんな事言っちゃったのかなぁって今では思うんだ。

顔は可愛いくせに気の強いななしは獪岳を思わせて、本来大好きな女の子に対するように接してあげられない。
正直言って好みじゃなかったはずなのに。


「どうしよう炭治郎ぉ…」

「善逸がまさか女の子を泣かすなんてちょっと驚いたな」


そう、泣かせちゃったんだ。
最初は別に泣かせるつもりなんか全く無くて、いつも通りの口論だったはずなのにどうしてかななしから凄く傷付いた音がした瞬間大きな瞳に涙を溢れさせた。

ぽろりぽろりと大粒の涙を流したななしの泣き顔がどうしても頭を離れない。
悲しそうな音が耳を離れない。

頼みの炭治郎も何とか本人に取り繕ってくれたみたいだけど、それでも駄目だったみたいだ。


「おい!おいおい!紋逸!」

「煩いなぁ伊之助。何だよ」

「ななしが重傷だって聞いたから教えてやろうと思ったのに何だその態度あぁん?」

「え…?」


あの日の俺の代わりにななしと鬼狩りに出た伊之助からの情報に俺は時間が止まったかのように体の動きを止めた。

何で、俺まだ仲直りしてないよ。
泣かせてごめんって言えてないよ。

待って、待ってよ。


「善逸、落ち着け!」

「なんっ、えっ…じゃあ何でお前はピンピンしてんの?一緒に行ったんじゃないのかよ?」

「突然鬼が2つに別れやがったからアイツと手分けしたんだよ。まぁ本体は俺様が倒してやったけどな!がはは」

「がははじゃねぇだろ!何で守ってやらないんだよ!」


胸を張った伊之助に腹が立って、無駄に晒してる胸板を叩いた。
伊之助に当たってもそんなのお門違いって分かってるし、本来俺が行くべき仕事だったのを変わってもらっただけなのも分かってるのに
ななしが重傷だって言って余裕ぶっこいてるコイツがどうしても許せなかった。


「あ?本来お前が行くはずだった任務に行ってやったのは俺だろ。だったらテメェで守ってやりゃ良かっただろ?偉そうに説教たれてんじゃねーぞ弱味噌が!」

「まっ、待て待て!伊之助も善逸も落ち着け!」

「だからって女の子が傷付いてんのに余裕かまして笑ってるのは可笑しいだろ!」

「まず最初に傷付けたのはテメェだろーが!」

「…っ、」


伊之助の言葉に返す言葉が無くて押し黙った。
そうだ、俺が傷付けたんだ。


「だけどっ…」

「善逸。伊之助に当たるのは間違ってる。少し頭を冷やしてこい」

「っくそ!」


炭治郎に冷静に諭され俺は三人の集まる部屋から一人外に出た。
このまま蝶屋敷に行きたいけど、ボロボロになったななしを見る自信がない。

それでも俺の足が向かったのはななしが居るという蝶屋敷だった。