「ねぇ!君、今俺の事見てたよね!?もしかして俺の事好きだったり?!」

「いえ…あの…」

「君みたいな子が俺を好きになってくれるなんてすっごい嬉しいよ!結婚しよう、うん。そうするしかない。だって俺も君と結婚したいも…ん"ぶぇっ!」


善逸は目を離すといつもこうだ。
今日も道行く女の子に縋っては結婚を迫っていたから、俺が拳骨を食らわせて迷惑行為を止めてやる。


「すみません、俺の友達が」

「い、いいえ!」

「酷いよ、炭治郎ぉ」


苦笑しながらその場を取り繕うとして彼女の顔を見た瞬間、こう…雷の様なものが俺の中に走った。
瞬いた黒い瞳の周りには綺麗な睫毛がそれを覆って、薄く桃色の唇が心地のいい声を響かせる。

一目惚れってこんな感じなのだろうか。
善逸が俺に何か言っているけど、目の前の彼女から目を逸らせない。


「あ、あの…?」

「すみません!!貴女の!お名前を!教えて頂けませんかっ!俺、竈門炭治郎って言います!」

「うるさっ!えっ!?炭治郎どうしちゃったの?」

「あ、私…ななしと申します」


戸惑うように答えてくれたななしさんに心が締め付けられる。
こういう風に話し掛けられるのは初めてなのか、恥ずかしそうに頬を染めたななしさんは名前を名乗ってくれた。


「ななしさん、か…素敵な名前ですね!」

「あ、ありがとう」

「もし良かったら、俺と…友だちになってもらえませんか!」

「お友だち…?いいの?」

「是非!!」


握手を求めて手を差し出すと白魚のような柔らかく綺麗な手が控えめに握り返してくれた。
ななしさんに触れられた右手が、さも心臓がそこにあるかのようにどくんどくんと脈を打つ。


「こんにちは!ななしさん!」

「竈門くん、来てくれたのね」


その次の日も。


「会いに来ました!!」

「あ、炭治郎君。いらっしゃい」


以来俺は暇があったらすぐにななしさんに会いに行った。
何度も頻繁に会いに行ってはたくさんの話をする。


「こんにちは!ななしさん!」

「炭治郎くん、こんにちは」


家以外の待ち合わせ場所にはいつも先にななしさんが来ていた。
俺を見ると嬉しそうに顔を綻ばせる彼女にどんどん惹かれていく。

段々と話していく中で、ななしさんが俺より一つ上であるのと藤の家の女の子だということを知った。
だから鬼殺隊の皆の話も出来たし、禰豆子の話だって出来た。

禰豆子が鬼だと言ったときには驚かせてしまったけど、本人と直接顔を合わせたら髪を結ったりあやとりをして遊んでくれて俺も嬉しくなる。


「ねぇ、炭治郎君。禰豆子ちゃんにこれ渡して欲しいの」

「これは?」

「私とお揃いのマフラーだよ。本を見て手作りしてみたの」

「わぁ…ななしさんは編み物が得意なんだな!」


橙色のマフラーは禰豆子にきっと似合うだろう。
素直に褒めるとななしさんからは嬉しそうな匂いがして、自然と俺も笑顔になる。


「そ、それでね…炭治郎君にも作ってみたんだけど」

「えっ!」

「お仕事で色々な所に行くでしょう?寒い所には慣れてるかもしれないし、いらないかもしれないけど…」

「いる!!」


そっと炭色のマフラーを差し出したななしの手を取って詰め寄った。
好きな人の手作りが嬉しくない訳がない。
少し勢いづいてしまったけど、驚いた後にすぐ笑ってくれたから良かった。