嫌いだった。
うちの家系は全員私以外男で、女だからと散々馬鹿にされていたから。

いつか見返してやる。
そう思った時にはみんな死んでいた。

ほらね、男だろうが女だろうが弱ければ死ぬんだ。


「永恋だ、よろしくな」


それでも私は性別を偽った。
同期は殆ど鬼にやられてこの世から居なくなってしまったから、私を女だと知る者も必然的に居なくなる。

気付けば後藤くらいしか居なくなっていた。
だけど後藤は隠だし、私の事は男だと信じてくれている。


「おい聞いたか永恋、お前の事好きな女が居るらしいぞ!」

「えー、俺?」

「羨ましいよなぁ」


仕草振る舞いで男らしくしてれば自然と周りが受け入れてくれる。
任務に向かう前に話しかけられれば、色恋沙汰の話。
そんなもん、私からしたらどうだっていい。

強くならなければ色恋したって死んで終わりなんだから。
誰かを大切にしたって、すぐ死ぬなら誰も特別にしなければいい。そう思っていた。

義勇さんに会うまでは。


「………」


たまたまだった。
その日の任務は鬼が強く、私達のような一般隊士では手がつけられないと救援を呼んだら近くに居た義勇さんが来てくれた。

私達では傷をつけるまでしか出来なかった鬼を一瞬で討ち取る姿はとてもかっこよくて目を奪われた。


「凄いな、柱って」


義勇さんは私が見た初めての柱だった。
柱は忙しい。故に色々な地方へ行き、異能の鬼を狩っていると聞いたけどやはり本物は凄い。

その日、他の隊士が眠りについた頃私は藤の家で風呂を借りていた。


同室の隊士は私が部屋に戻っていた時にすでに鼾をかいていたし誰も入ってくる事はないだろうと思っていたんだ。

隊服を脱いで、しっかり巻いた晒しを外す。
触れられても大丈夫なように厚紙を取ってやっと得られた開放感に息を吐く。


「さてさて、さっさと入って寝よう」


ガラリと戸を開け、身体を洗い湯に浸かると思い浮かぶ先刻の柱による圧倒的な剣技。
美しかった、かっこよかった。私もいつかそうなりたい。


「水柱か…」


嫌われていると噂では聞いたけど、美丈夫であるし実力もある。
無口なだけで、彼がいい人なのくらいは分かった。

年々と膨らみ始めた胸に手を当て、私も男であったならもっと強く慣れていたのだろうかとふと思う。


その時だった。
扉が開いて、湯気の向こう側に人影が見える。

藤の家の住人の人だろうかと湯船に身体を隠しながら目を凝らす。


「誰か居るのか」


確信めいた問い掛けは私に向けられたもの。
この声は聞いたことがある。
今考えていたばかりの水柱の声だ。


「水柱、すみません。俺です」

「…お前は」

「先程は救援ありがとうございます。永恋と言います。この様な所でご挨拶する事になってしまってすいません」


極力身体を隠すようにしながら淡々と水柱に挨拶をする。
入ってきたのが水柱で良かったのか何なのか最早私には分からない。
同僚のように近寄っては来ないだろうが、察知能力は水柱のが完全に上だと思うし。

何処かで水柱の目を盗んで出る事は出来ないだろうかと身を清める姿を眺める。
筋肉質でいい身体だ。


「水柱、いい身体してますね」

「…男の身体を見ても楽しくないだろう」

「いやいや、憧れますよ」


本当に、ね。
私の身体は結局女だから、あんな風に筋肉質にはなれない。
どんなに鍛えても、きっと限られてる。

無造作に結んでいる水柱の髪は水に濡れ、官能的にも見える。
あの身体に抱かれたら、どうなってしまうんだろうか。

腰がぞくりとして、思わず視線を反らした。
今私は何を考えているのだろうか。


「隣いいか」

「え、あ!はい!」


やばい。見惚れ過ぎてしまった。
水柱はそんなに広くない湯船に身体を沈め、お湯が増して溢れる所を身を縮めて眺める。

どうしよう、少しのぼせて来た。