「また、会いに行くから!ななしさんに会えない時は手紙を書くよ!」

「…うん」


腕の中のななしさんの匂いが、ちょっとだけ安心したものに変わった。

それから顔を真っ赤にして暗くなる前に帰ったななしさんの事を想う。


「可愛かったな…」


早く治してななしさんにまた会いに行こう、そう考えながらゆっくり瞼を閉じた。
その日の夢は何だか凄く楽しいものだった気がする。

それからじょじょに機能回復訓練をしながらヒビが入った骨も治り、退院許可が降りた。


「一応経過も見たいのでまたある程度したらこちらへ来てくださいね」

「はい!お世話になりました!」

「どういたしまして」


アオイさんに頭を下げて、俺は走り出す。
ななしさんに会いたい、その一心で藤の家がある町へ向かう。

日中だから禰豆子はいつもの箱の中で眠ってる。


「ななしさん!」

「えっ…炭治郎君?身体はもう大丈夫なの?」

「うん!だから、会いに来たんだけど…忙しかったかな」

「これから私買い出しに行くんだけど、それが終わった後なら」

「なら俺も付き合うよ。少しでもななしさんと一緒に居たいんだ」


ななしさんが持っていた買い物かごを半ば奪うような形で持ち、勇気を出して行きどころの無くなった手を掴んだ。
家の手伝いで水仕事もしてる筈なのに、すべすべの手に思わず顔に熱が集まる。


「た、炭治郎君…?」

「ごめん、良かったら手を繋いで行きたい」

「う…うん」


俺は照れを隠すように蝶屋敷での事を饒舌に話した。
最初は緊張していたななしさんも段々といつも通りに笑ってくれるようになったし、繋いだ手も離される様子もない。

一緒に頼まれた食材を選び、気が付けば買い物かごもいっぱいになっていた。


「しかしこんなに買い物するんだな」

「うん。鬼狩り様がいつでもお食事出来るようにって考えると量は少し多めに買ってるの。他にも家でお野菜を作ったりしてるんだよ」

「こんな風にして、俺達を支えてくれる藤の家の人達は本当に凄いな」

「何言ってるの。命を掛けて私達を守ってくれてるんだもの、当たり前の事だと思うよ」

「でも、きっと俺達鬼殺隊だけだったら広範囲になんて無理だったと思う。だからありがとう」


俺達も人々を守っているけれど、藤の家や色んな人達も俺達を支えてくれるからこうして頑張れる事を知っていて欲しかった。
他の誰でもなく、ななしさんだったから余計に。

感謝を告げると、ななしさんは照れたように笑ってくれた。


「そう言ってもらえると、私達も嬉しいよ」

「きっと口に出す機会がないだけで他の人も思ってるぞ!」

「そっか…じゃあ私達もお礼を言わなきゃね。炭治郎君たち鬼狩り様達のお陰でこうして生活できているよ。本当に、ありがとう」

「――――っ!」


ななしさんからは嬉しそうな匂いがして、それに添えられるような笑顔に俺の鼓動は高鳴った。
初めて会った時にも似たような感覚だったから、俺はきっと何度もななしさんに心を射止められているんだと思う。

ななしさんを振り向かせたくて、俺を見て欲しくて何度も何度も会いに行った。
その度にどんどんと俺に心を開いてくれる姿が嬉しかったし、柔らかくなっていった笑顔がとても印象的でもっともっと好きになっていく。

正直もう善逸にしつこいと言えないくらいには、会いに行っていたことは自覚している。

それでも俺に笑いかけてくれるななしさんからは喜んでくれるような匂いが増していった。
だから、そろそろ俺も覚悟を決めないとななんて思うんだ。