この年の冬はななしさんから貰ったマフラーを着けて禰豆子と仕事に出たし、会いに行くときもどこへ行く時も着けていった。

余りに使い込みすぎて善逸にもドン引きされたけど、側でななしさんを感じるようで取りたくなかったんだ。


「ほんっと炭治郎はななしちゃんにお熱だよなぁ。俺あの時普通に空気扱いされたし」

「すまない。つい…」

「でも良かったじゃん。炭治郎が恋愛なんて、俺ちょっと驚いたし」

「善逸のお陰だな!」

「いいよいいよ、さっさとななしちゃんとくっついてくれたら俺にとってもこうつご…じゃなくて嬉しいし」


何だか裏のあるような気もしたけど、俺とななしさんを応援してくれる善逸の気持ちは素直に受け取っておいた。
夜も更けたし、敷かれた布団へ入ってマフラーを横に置く。

この前解れた所を直してもらったから、ななしさんの香りがする。


「おやすみ」

「おやすみぃー」


伊之助は単独で任務に行っていたから、今日は俺と善逸と禰豆子だけだ。
目を閉じるとななしさんの花が咲いたような笑顔が思い浮かぶ。

今度会いに行く時は何かお菓子でも持っていこうと思う。
そしたらきっと、またあの笑顔を見ることが出来るだろうから。








その日が明けた次の日、俺は急な指令で3日程ななしさんに会いに行く事が出来なかった。

帰ってきても、怪我をしてしまって蝶屋敷に暫く寝泊まりする羽目になって全く顔を見に行くことが出来ない日々を送っている。


「竈門くん竈門くん」

「あっ、しのぶさん…」

「君らしくないですね。冨岡さんみたいな顔になってますよ?」

「えっ、義勇さんみたい?」

「はい。とても陰気臭い顔をしています」


ぼうっとベッドから空を眺めていたら、しのぶさんがひょっこりと顔を出して話し掛けてくれた。
気を使ってくれたのか、それにしてもしのぶさんから見た義勇さんって辛気臭い顔をしているのだろうか。

相変わらず不思議な雰囲気を纏った人だなと思いながらしのぶさんを見ていると、後ろにも誰かの気配を感じた。

この匂いは、もしかして。


「そんな竈門君に朗報です。貴方にお客さんですよ」

「えっ…!」

「こ、こんにちは」


しのぶさんの背中から顔を出したななしさんに驚いて思わず大きな声を出してしまった。
肋骨に入ったヒビが痛みを訴えるけど、そんな事はどうでも良くてただただ求めていた人の姿に目を奪われる。


「ごめんなさい…炭治郎君が心配で」

「たまたま包帯をお借りしにななしさんのお宅に寄ったら随分と竈門君を心配していたので連れてきちゃいました」

「そ、そんな…謝らないで!しのぶさんも、気を使わせてしまったようですみません」

「いいんですよ。でも、今日だけの特別です。それではななしさん、お帰りになる際は誰かに声を掛けて下さいね。送らせますので」

「あっ、いえ…ありがとうございます」


しのぶさんの申し出を断ろうとしたななしさんは、圧力のある笑顔に黙殺されすぐ様受け取る姿勢に変わった。
分かるよ、しのぶさんには逆らえないよね。

そんな事を思いながら席を外したしのぶさんを見送る。


「炭治郎君、大丈夫?」

「う、うん!少しだけ骨にヒビが入って、頭を打ったから経過を見る為にここに居るだけだよ」

「そう…それならいいのだけど」


二人きりになって、ななしさんはそっと俺の頬に手を当て黒目がちな瞳が潤む。
少しだけひんやりとしたその手に自分の手を重ね合わせた。


「だ、大丈夫だ!これくらい、何てこと…」

「他の方のように帰ってこなかったらどうしようかと、思った」

「ななしさん」

「炭治郎くん、貴方が来ない日は寂しいの。鬼狩り様のお仕事が大変な事は私なりに分かってるから、また会いに来てね」


今度は私も会いに行くからと柔らかく微笑んでくれたななしさんの腕を思わず引っ張って腕の中に閉じ込めた。