「そんなに厭らしい声を出して…そんなに触れられたかったのか」

「っ、ご…めん、なさっ」

「なぜ謝る」

「だって、はしたないっ…」


そう言った瞬間、身体を這うように動かしていた義勇さんの手が止まった。
さっきまでの意地悪な表情が、いつもの真顔に戻っている。

引かれてしまっただろうか、嫌になってしまっただろうか。
そう思うと不安で、さっきとはまた別の涙が浮かんでくる。


「きっ、嫌わない…でっ!」

「……嫌わない」

「でも、だって…私っ、」

「本当はずっと触れたかった」


頬を伝う涙を舐めとった義勇さんは、泣きじゃくる私の頭を撫でてくれる。
そして言葉を続けた。


「ただお前を大切にしたかったんだ」

「そんな、いつも私の事大切にしてくれてるじゃないですか」

「男たるもの好きな女を大切にするのは当たり前の事だろう」


何だか今日はとっても饒舌なんだな、なんて思いながらも私の不安を拭ってくれようとする義勇さんに嬉しくなる。
私の事を考えてくれていたんだ。


「はしたないなんて思わない。俺を求めてくれるななしは可愛い」

「う…本当、ですか」

「だからもっと、素直になっていい。それくらい、受け止める」


義勇さんは私の額に唇を押し付け、小さく微笑んでくれた。
いいのだろうか、触れても。
いいのだろうか、触れられたいと思っても。
そう思いながら義勇さんを見つめれば、首を縦に振って頷いてくれる。


「わ、わたし…もっと、義勇さんに触れたい」

「あぁ」

「義勇さんにも、もっと触れられたいし…求められたいです」


義勇さんの言うとおりに自分の素直な気持ちを吐露する。
そんな私の言葉をしっかり聞いてくれて、頭を撫でてくれる義勇さんに頬が緩んだ。

いつだって義勇さんは私のなんてこと無い話も、泣き言も黙ってちゃんと聞いてくれていた。


「ねぇ、義勇さん。義勇さんは私と同じ気持ちでいてくれていますか?」

「……それは、本人に聞くといい」

「え?」

「そろそろ起きろ、ななし」


そう言われて目の前の義勇さんが消えて、驚いた私は急いで身体を起こした。

…起こした?


周りを見渡せば辺りは夕日に彩られ、干したはずの布団は竿に掛かっていなかった。
ただ眠った時のままの、掛け布団だけを握り締めて唖然としてしまう。


「…え?」


両手を開いたり閉じたり、義勇さんに口付けてもらった唇を触れてもなんの感触も残っていない。

もしかして夢だったのだろうか。
それにしては、凄い夢だった。


「やだ、私ったら…」


長いため息をついて自分の両手で顔を覆う。
覚めたばかりだからか、夢の中の義勇さんを思い出して思わず顔がにやけてしまった。


「か、かっこよかった…無理、やばい。夢だけであんなにかっこよかったのに現実でされたら私死んじゃうかも」


夢の中の出来事だったと言うのに、ここまでの破壊力をもたらす義勇さんは凄い。
ふふ、と笑ったその時だった。