「ななし」


ふと私を呼ぶ声がして目を開ける。
心地のいいこの声は義勇さんだと身体を起こすと、私の顔の横に両手をついて見下されていた。

余りの光景に寝起きの私は絶句してただ薄く微笑む義勇さんの顔を眺める。


「どうした」

「…あ、いえ…その、あう」

「寝言で俺の名を呼んでいた」

「ひぇっ…ごめんなさい」

「触れてほしいのか」


いつもと様子の義勇さんに心臓が煩くて、ついどもってしまう私の頬を触れてくれる。
寝言で私は何を言ってしまったのだろうかと思う。
こんな風に私に触れてくれる義勇さんを知らない。

すると頬を撫でていた義勇さんに顎を固定されて、思わず声を上げそうになった瞬間口が塞がれた。

私の唇を食べてしまうように優しく包み込んで、何度も何度も義勇さんに啄まれる。
初めての経験でどうしたらいいのか分からない私はひたすら義勇さんに翻弄された。


「ふっ、ん…」

「口を開け」

「…え?」


どうしてですか、と言おうとした口内にぬるりとした感触がして目を見開いた。
上顎や歯列を舌でなぞられ、思わず背筋がぞくぞくとしてしまう。

目を閉じた義勇さんが私に口づけをしてくれている。
時折洩れるように吐く息が艶やかでどうにかなってしまいそうだ。


「はっ、ぁ…んっ」

「っ、は…」


覆い被さる義勇さんから唾液を送られ、水音が大きくなる。
それが凄く厭らしくて、羞恥に目を閉じながら必死に義勇さんの唾液を飲み込む。

しつこいくらいに絡められる舌にお腹の奥がきゅんとして、太腿を擦り合わせ酸欠になりかける自分の意識をどうにか繋ぎ止める。


「ん、っ…は、義勇さん…」

「可愛い」

「あう…耳元で、囁かなっ!?」


やっと唇が離れて、息も絶え絶えに義勇さんの名前を呼べば肩口に顔を埋められ耳元で囁かれる。
口付けだけで私の身体は敏感になってしまって、耳に掛かる吐息だけで腰が浮いてしまう。

それを抑え付けるように体重を掛ける義勇さんは、耳朶に舌を這わせた。

水音が直接耳を刺激して、びくびくとしてしまう私は義勇さんの羽織を掴んで何故こんな事になってしまったのか必死に考える。

触れてほしいと思ってるのは今だって変わらない。
嫌な訳じゃないけれど、何が彼をここまで煽ったのかが分からなくて与えられる刺激に潤み始めた瞳は涙をひと粒溢した。


「んゃっ、ぎっ…ゆ…さ、ぁん!」

「ん…?」

「ぁっ!だ、だめ、声っ…」

「言ってる意味が分からないな」


義勇さんはこういう事になると意地悪なんだろうか。
耳をいじめる舌を止めることも無く、左手で私の身体を弄り始めた。

二の腕から肩へ移動して、ゆっくりと胸へ手を滑らせる。

止まらない刺激に身体が反応するのを我慢できない。
自分じゃないような声を上げるばかりで、耳から顔を離した義勇さんは息で笑う。

何も考えられなくなりそうな私はそれでも義勇さんのかっこよさに胸が高鳴ってしまった。