「冨岡さんて、ヘタレなんですね」


猛アタックの末に義勇さんとお付き合いしたはいいけど、いつになっても手を出されない私が悩みに悩んで相談しに行ったしのぶさんが言った言葉はこれだけだった。


「はー…私って魅力がないのかなぁ」


義勇さんが基本的に何を考えているのかは分からないし、その中でたまに見せる優しさが凄く大好きなのだけどこれだけはどうしても解せなかった。
私達はまだ口付けもしていないし、手も繋いだこともない。

今日は義勇さんが家に帰ってくるというし、彼の好きな鮭大根でも作ってあげようとお屋敷へ出向いてお食事の準備をする。

料理は嫌いでは無いし、好物を目の前にした義勇さんを見れるのはとても嬉しいから寧ろ喜んでやってはいるけれど、やっぱりそろそろ触れたいと言うのが本音。


「はしたない女なのかな」


考え事をしながらの料理は意外と早く終わり、後は一度味を染み込ませるために冷やす。
義勇さんが帰ってくるまでまだ時間はあるし、お部屋の掃除もしてしまおうと雑巾と箒を持ってくる。

黙々とやっていると、残りは義勇さんのお部屋の掃除だけとなって襖の前で腕を組んだ。


「他のお部屋はいいとして、義勇さん不在の時にお掃除していいものなのかな…」


義勇さんの事だから物は少ないのだろうとは思うけれど。
塵を掃くだけしてさっさとお部屋から出ればいいだろうかと意を決して襖を勢い良く開く。

義勇さんらしい、必要最低限の物しかないお部屋だった。
後は変に触ることなく換気をして埃を掃けばいいだけだと言い聞かせて、丁寧に掃いていく。


「義勇さんて綺麗好きなのかな。男性の部屋にしてはとっても綺麗」


少しずれていた本を元に戻して、部屋を見渡す。
ついでにお布団も干してしまおうと、隅にあった物を竿へ掛けようと背伸びをした時義勇さんの良い香りがした。

その香りにぎゅっと心臓が締め付けられる。


「…義勇、さん」


早く会いたいな、なんて思いながら残っていた掛け布団を抱き締めて縁側へ座る。
こうしてると義勇さんに抱き締められてるみたい。
前に一度、事故ではあったけど義勇さんに抱き留められた事があった。

意外としっかりとした身体はとても男らしくて素敵だった。


「……きゃー!私何考えてるのかな!でも、だって、素敵だったんだもん、仕方ないよね!」


急に照れてしまった私は大きな独り言を言いながら頬を両手で包む。
あの時ついつい義勇さんにまだ抱きついていたくて胴に腕を回したら凄く困った雰囲気で、そっと外されたのはいい思い出だ。

照れてたのかな、なんて思ったら可愛くって仕方が無かった。


「それにしても、今日凄く良い天気だなぁ…」


一人で興奮していたら少し眠くなってしまった。
ちょっとだけならいいかなと、義勇さんの掛け布団を抱き締めて縁側で蹲る。

義勇さんの香りに包まれて寝れるなんて、きっといい夢が見れるんだろうななんて思いながら目を閉じた。


「ぎゆ、さん…大好き…」


貴方になら何されても嬉しいの。
はしたないかもしれないけれど、触れたいし触れられたい。

いつか義勇さんに触れたいと思われるような女性になりたいな、なんて思って。