街に着く頃ななしを下ろしてあげて、女の子が好きそうな小物屋に連れて行ったらめちゃくちゃ目を輝かせて簪や着物を見ていた。

いつも気の強いななしはそこに居なくて、ただただ可愛らしい表情を浮かべた女の子のななしが居る。
好みじゃないなんて、俺はいつからそんな思い込みをしていたんだろうか。

鬼なんか居なかったらきっとななしはただの女の子だったんだろうななんて思う。


「善逸!見て、これ可愛い!」

「うん」

「あ、これなんか蜜璃先生に似合いそう!」


あー可愛い、なんて思う。
そんなななしをただ見守っていた俺だけど、何となく視界に黄色の髪飾りが入り込んできた。

真上で結ばれた髪をこれが飾ったらもっと可愛いんだろうななんて手に取ってそれを髪へ優しく差す。


「…ぜ、善逸?」

「うん、可愛い」

「っ…!」


本当にそう思ったんだ。
だからななしにこれを付けてほしいと思ったし、贈ってあげたい。


「おっちゃん、幾ら?」

「ちょっ、何してんの!」

「嫌なら捨てていいよ。俺がななしにあげたいと思ったから買うだけだし」


おっちゃんにお金を払って、ななしの手を取ってその店を後にする。
ごめん、ななし。今だけは、今だけはそれつけてて欲しいんだ。
ただの俺のワガママだけど、この時だけは他の物をつけて欲しくない。


「…こ、恋仲みたいな事突然しないでよ」

「恋、仲?」

「どうしたの、善逸。今日なんか、変」

「…へん」


俺が贈った髪飾りをつけたままのななしが目を逸らしながら、赤い顔を隠すように空いている腕で口元を隠している。

へん、変…確かに今日の俺は変なのかもしれない。
ななしが困るのも分かる。


「あんたが好きなのは禰豆子でしょ。やめてよ、あたしこういう事慣れてないから」

「い、いや…禰豆子ちゃんは」

「何とも思ってなかったはずなのに、こんな事されたらあたしだって意識しちゃうじゃん…」


終いには俯いてしまったななしは耳まで真っ赤にしてる。
意識する?ななしが俺を?


「意識、してくれよ…」

「は?」

「俺だって、ななしの事意識してんだからさ」


それなりに過ごしてきたはずなのに、今日見るななしの初めて見る一面が凄く可愛くて俺だって困ってんの。

そう告げれば更に目を潤ませたななしの手を離さないよう握り締める。


「獪岳…俺の兄弟子に何となく似てるななしが本当は苦手だったんだ。女の子のくせに勝ち気で、負けん気が強くてさ。睨むと怖いし…」

「わ、悪かったわね!」

「なのにズルいじゃん。泣いた顔も、小物見てはしゃぐななしもめちゃくちゃ可愛いんだもん」

「…な、ななな」

「どーしてくれんのさ」


いつもの強気さを欠片も感じない程慌てるななしに繋いだ手を絡めながら距離を縮める。
ねぇ、分かってんの?そんな慌ててる顔も、仕草もめちゃめちゃ可愛いんだよ?
これ以上俺の心乱してどうしてくれんのさ。

ななしの心臓も俺と同じ様な音がしてんのだって分かってんだよ。


「ねぇ、ななしも俺と同じ音がするんだけど…これって同じ気持ちって事でいいの?」

「お、音って…だって、私…」

「好きだよ、ななし」


いつになっても抵抗をしないななしを抱き寄せて耳元で囁く。
まさか自分がこんなに落ち着いた告白するなんて思ってもみなかった。

いつも女の子に興奮したまま求婚だなんだってしてたけど、自分と相手の音が一緒だなんて初めての事だから訳分かんなくて変に落ち着いちゃうんだ。
凄く凄く、心地がいいから。


「あ、あたし!恋なんて、まだ分かんない…でも、善逸が私と同じ音で、それを恋だって言うなら…このドキドキはあたしも善逸に恋した音、なんだよね?」


繋がれた手を心臓の上に重ねて俺を上目遣いに見つめるななしにやられた。
今俺心臓大丈夫かな?止まったりしてない?死んでない?


「答えてよ、善逸」


どうしよう、幸せ過ぎて死にそうだよ爺ちゃん。