「行くか」

「うん!」 


俺の左側に嬉しそうなななしが歩く。
俺が右利きだから、必ず利き手が使えるよういつも左手で手を繋いだ。
最初はどうしていつも左側なのかと少しだけ疑問に思っていたが、前に炭治郎と鬼狩りに出た時に気を使ってくれているのだと気付いた。


「嬉しいなぁ」

「何がだ」

「こうして義勇くんと手を繋いで仕事に行けるの、凄く嬉しいの」


空いている左手も使って繋いだ俺の手を包み込んで笑う。
笑顔が可愛いのに、行動も可愛いななしを婚約者に持つ俺はなんて幸せ者なんだ。

少しでも触れ合う部分が増やしたいと俺もそっと引き寄せ腕をくっつける。
俺の意図に気付いたななしも寄り添うように頭を傾けて更に密着度が増した。


「またしのぶさんに揶揄われちゃうね」

「言わせておけばいい」


胡蝶に何と揶揄われようと俺はななしと離れようとは思わないし、彼女も恥ずかしがりはするが離れる様子は今まで一度もなかった。

前に蝶屋敷に用があったんだろう不死川に見られた時はこの世のものではない物を見たような顔でこっちを見ていたな。

きっと羨ましかったんだろうと思うと少しだけ頬が緩む。


「義勇くん、ご機嫌だね」

「ななしが側に居るからな」

「えぇー、いつも居るよ?」

「ならいつも機嫌がいい」


何それ、とななしは笑うが本当の事なのだから仕方がない。
たまに我妻辺りがななしにくっつこうとした時くらいだ、苛つくのは。


「今日は何時に帰る。迎えに来る」

「うーん、夕刻前だとは思うけど」

「ならそれ位にまた来る」


ななしと歩くとあっという間に蝶屋敷に着いてしまう。
胡蝶は不在なのか別の者が俺達を出迎えてくれた。

気を使わせるつもりは無いから入り口で帰りの時間を聞いて迎えに来ることも伝える。


「ありがとう。炭治郎くんの所行くなら気をつけて行ってきてね!」

「あぁ。行ってくる」


いつものやり取りに屋敷に居るような気分でつい口付けてしまうが、いい虫除けになっただろうと気にせず顔を真っ赤にしたななしの頭を撫でてその場を後にした。

さて、炭治郎はどこに居るだろうかと鴉をやろうとした時こっちへ駆け寄る足音が聞こえる。


「…炭治郎か」

「義勇さん!お久しぶりです!」

「久しいな」


ななしの次に可愛い弟弟子は鼻がいい。
俺の匂いを嗅ぎ付けて来てくれたのだろうと思って久し振りに会う炭治郎の顔を見た。


「義勇さん、今凄く幸せそうな匂いがします!」

「そうか」

「ななしさんの事送ってきたんですか?俺は善逸の見舞いに来てて…」


完全に聞き手に回る炭治郎に頷きながらも、蝶屋敷に我妻が居るのかと心のどこかで思う。
あいつは隙あらばななしに触れようとするから困った奴だ。


「あ、でも安心してください!ななしさんに無駄に近付くなってきちんと言い聞かしておきましたから!義勇さんのお嫁さんになる人ですから、俺にとっては姉の様な存在ですし」

「…助かる」


愛嬌のある顔で笑う炭治郎が一瞬真顔になったからきっとかなり強く言い聞かせたのだろうと思う。
そう言う事をされた事がない俺からすれば未知ではあるが、噂では怖いと聞いた。
ななしが怒った時のような感じなのだろうかと思いながら礼だけ告げておく。

我妻には恐らく柱の俺ではなく炭治郎の説教が一番効くんだろう。
炭治郎は夜には任務があると言っていたが、そう遠い所ではないらしく折角会えたのだから鍛錬に付き合って欲しいと言うので近くの山へ向かった。