あれから風呂を出た俺は机に用意された飯に舌鼓をうち、寝る前にななしと縁側に座って憩いの時間を過ごす。

あと少ししたら彼女は蝶屋敷に向かってしまう。

日中から昼過ぎまで胡蝶たちの手伝いをしているななしは、俺の寝ている間基本的には屋敷に居ない。


「義勇くん、昨日は炭治郎くん達が顔を出しに来てくれたの」

「元気そうだったか」

「少しの怪我はあったけどどれも擦り傷だったよ。義勇さんは元気にしてますか、とか義勇さんに今度会いに行きたいですって言ってた」


朝方のひんやりとした空気を吸いながらななしを抱き寄せて昨日一日の話を聞く。
基本的に聞く側ばかりになるが、それでも心地の良い声で俺に話を聞かせてくれる彼女の声が好きだ。


「慕われてるね、義勇くんは」

「炭治郎は、未来のある隊士だ」

「そんな彼を繋いだのは義勇くんだよ。貴方が先を示してあげたから、あの子は未来に向かって走り出せた。それが些細なきっかけだと思ってるのかもしれないけど、とても大切な事だったんだって私は思うの」


そんな貴方を誇りに思うよ、と言って首筋に寄り添うななしの頭に口づけを落とす。
俺だって炭治郎にはたくさん教えてもらった事はあった。
兄弟子として、弟弟子として支えあえているというのなら嬉しい事この上ない。

鱗滝さんも、きっと錆兎も喜んでくれているだろうとこれだけは自信を持って言える。


「ななし」

「どうしたの、義勇くん」

「お前が側に居てくれるから、頑張れる。お前の笑顔が俺に力を与えてくれる」


美しい事だけではない。
こうしてただ人を真っ直ぐ見つめて、思いを伝えその手助けをしてくれているななしだって俺の誇りだ。

口下手である俺の気持ちを汲んで、時に甘やかして時にしっかりと叱ってくれる。
そんな存在があるからこそ、今の俺があるんだ。


「お前無しでは俺は生きられそうにない」

「ふふ、鬼殺隊の水柱様がそう言ってくれるなんて嬉しいなぁ!私も、義勇くんが居ないときっと生きられないかも」

「それは駄目だ」

「ならずっと側に置いていてね」


ななしの腰に回っていた俺の手に指を絡め頬に口付けられる。
なんて、穏やかで幸せな時間だろうと思う。

頬だけでは足りなくなった俺はななしの顎をすくい上げ柔らかな唇に自分のを重ねる。
自分は欲の無い方だと思っていたがななしと共に過ごすようになってからは足りないばかりが頭に木霊する。

もっと側に居たい。
もっと口付けていたい。
もっともっと、触れていたい。


そんな気持ちがつい口付けに出てしまって、段々と深くなる俺に必死に答えてくれるななしが更に愛しくなる。

毎日毎日、お前を好きになる。


「愛してる」


こんなに心を奪われて俺は大丈夫なのだろうか。
いつだか胡蝶に
「骨抜きにされるとはこういう事なんでしょうね」
と揶揄われたことがある。
その時に意味を知らない俺は首を傾げたが最近になって分かるようになった。


「は、っ…ん、もう、義勇くんっ」


やっと離れた唇から銀糸が繋がってぷつりと切れる。
肩で息をするななしに最後だともう一度ちゅ、と軽く唇を合わせた。

これ以上は止まらなくなってしまう。


「お布団、行こう?」

「!」

「ち、違うよ!そろそろ向かわなきゃいけないから、義勇くんにおやすみしたいだけだからね!?」

「…必要ない」


今日は非番だ。
それなら蝶屋敷に行くななしを送ろうと思って着替える為に自室へ向かう。


「えっ、あっ…送ってってくれるって事?」

「そうだ。迎えにも行く」


ななしが仕事している間仮眠を取ったら炭治郎の所にでも顔を出してやろう。
洗濯しておいてくれた隊服に袖を通し羽織を着る。

既に用意をしていたのかななしは自分の荷物を持って俺の側で準備が終わるのを待ってくれていた。