ななしは可愛い。俺の大切な彼女だ。
心から愛しいと思ったのも、側に居て欲しいと思ったのもきっと後にも先にもななし以外居ないだろう。


「義勇くん、おかえりなさい」

「あぁ、ただいま」


鬼殺隊の人間は基本夜動く。
夕方頃に出向き、朝方に帰る生活をしている俺をななしは献身的に支えてくれ寄り添ってくれる。

それがどれ程に有り難いことか、きっとしてくれている本人は知らないのだろう。

笑顔で出迎えてくれたななしを抱き締めると良い香りがする。
元々化粧っ気のない彼女から香水の香りなどがする事は無いというのに、安らぐような温かい香りは何なのだろうと思う。


「どうしたの?」

「疲れた…のかもしれない」

「お疲れ様です。ご飯にするかお風呂にするかどっちがいいかな?」

「風呂に入ってくる」

「分かったよ」


ななしは元々胡蝶の元で働いていた人間だった。
誰にでも分け隔てなく接してくれる姿はまるで女神のようだと誰かが言っていた気がする。

そんな彼女を俺が付き合った時には周りの人間全員が目を点にしていた。
それはそうだろう。俺のような男が女神と言われるななしと結ばれたのだから。


「背中流そうか」

「あぁ」

「じゃあ支度してくるね!」


脱衣所で脱いだ服を籠へ入れていると、扉の向こうからななしの声がした。
疲れたと言うと必ず俺の髪や身体を率先して洗いに来てくれる気配りに甘える。


「義勇くん、お待たせー!」


俺が甘えると、こうして嬉しそうに浴室へ顔を出し濡れてもいい服を着たななしが現れる。
本人曰く、俺は面倒を見たくなってしまう対象なのだという。

腕を捲り、裾を太ももまで上げたななしの姿は唆られるがここで襲えば怒られる事間違いないからぐっと堪えた。


「先に髪の毛洗うね」

「頼む」


ななしがこうして頭を洗ってくれた次の日は無造作に広がりがちな俺の髪はしっかり纏まる。
使っているものは同じだと言うのに何が違うのだろうと思う。


「ふふ」

「?」

「こうして義勇くんのお世話が出来るって凄く幸せね」


髪を優しく洗ってくれながら楽しそうに笑うななしに俺も心が満たされる。
彼女は整体が得意とし、髪の毛を洗いながら頭皮を揉んでくれたり肩の凝りを解してくれるから疲れも相まって少し眠たくなる。

こんなに可愛らしいななしに、いたれりつくせりな俺はこの世で一番幸せ者だと思う。


「流すよー」


一声かけられて湯をかけられる。
髪についていた泡は流れ落ち、邪魔な前髪を掻き上げると目の前に嬉しそうに笑ったななしがいる。


「どうした」

「髪をかきあげる義勇くん、とってもかっこいいから覗きこんでたの」


自分の赤くなった頬を包みながら照れ臭そうに笑うななしに俺までつられてしまう。
なかなか表情筋の働かない俺の顔は彼女の前でだけいつもより仕事をするそうだ。

現に頬が緩むのを自分でも感じている。
ふとななしの顔が近寄ってきて、額に柔らかな感触が当たった。


「…へへ」


口付けしてきたのはそっちだと言うのに更に頬を紅潮させるななしに、いつになっても初々しい反応が俺を喜ばせた。

どうやら俺は独占欲が強いと言う事を知り、濡れてしまうのも構わず可愛らしい笑顔を浮かべるななしを抱き寄せる。


「わっ、義勇くん!」

「可愛いお前が悪い」


元より濡れてもいい服を着てきたのだからこれくらいはいいだろう。
俺が帰る前には風呂に入っていたんだろうななしからはさっき髪を洗った石鹸と同じ匂いがした。