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俺の彼女はモテる。
美央と付き合って半年は経つし、俺達の関係は全校生徒が知ってると言っても過言じゃない。
今日は学園祭だし、色々なところを一緒に回ろうと約束をしている。

それなのに、


「美央ちゃーん!!今日も超絶ミラクルウルトラ可愛いねぇ!!!」

「我妻先輩こんにちは!」

「野乃木さん、今度の委員会の事なんだけど事前に二人で打ち合わせしながら学園祭回らないか?」

「先輩お疲れ様です!彼氏と一緒に回るのでお断りしまーす!」


俺は男だから、束縛なんてしないし嫉妬なんてしない。
しない、けど。これはどういう事なんだ。


「錆兎、怖い顔してるよ」

「真菰か…」

「相変わらず美央はモテモテだよねー」


幼馴染の真菰が教室から騒がしい廊下に顔を出した。
笑顔でしっかり断ってるあたり勿論美央らしくて、愛しいと思う。
一つ言っておくが俺は美央を信用している。だからこそ、こうして黙ってみているんだが。


「錆兎ー!お待たせ!あ、真菰も居る!」

「あぁ」

「相変わらずモテモテだね、美央は!」

「何言ってるの!真菰が一番可愛いよ」


俺の姿を見て顔を綻ばせる姿は尊い以外の何者でもない。
近寄ってきて当たり前のように俺と手を繋げば、俺の横に居た真菰とハイタッチしている。


「あれ、錆兎機嫌悪い?」

「そんなわけ無いだろ。さ、行こう」

「え、あ!またね、真菰!」

「うん、またねー!」


俺達が回れるのは学園祭の午後だったから、早めに回らなきゃ美央が食べたいと言っていたチョコバナナが食べられない。
真菰はクラスの出し物の担当が午後だから、挨拶もそこそこに二人で歩き出す。

折角美央との学園祭デートなのに、さっき絡んでいた男たちの顔が嫌に頭に残ってる。
こんなんじゃ駄目だ、男らしくない。首を横に振って繋いだ手をより一層深く絡めて美央の顔を見ると心配そうにこちらを見ていた。


「どうした?」

「錆兎、何か怒ってない?私何かしちゃったかな」

「い、いや。そんな事は」

「何かしたなら謝りたいから、教えて?」


俺の硬い手を繋いでいない手で優しく撫で両手で握られる。
大丈夫だ、そう言って頭を撫でてやろうと気持ちを切り替えようとした瞬間。


「あ、さっきの可愛い子じゃん!」

「ホントだ。なになに、彼氏と一緒なの?」


何なんだ、こいつらは。
他校の制服だが、背丈的には俺達より歳は上っぽい。挑発的な目で俺を睨んでくるそいつらを睨み返してやれば意にも介さない様子で無視された。

美央に誰だと問おうと思ったら、明らかに困った様子と手から伝わる弱々しい力にそっと肩を抱き寄せてやる。


「そんなガキじゃなくて、俺らと回ろうよー」

「い、いえ。さっきも断ったように、私は彼氏と回るので無理です!」

「何で?いいじゃん。おいでよ」


無理矢理美央の肩を掴んだ瞬間、俺の怒りが爆発した。
争いごとが嫌いな美央の前であまり荒っぽい事はしたくないが仕方ない。


「俺の美央に触れるな」

「さ、錆兎…」

「あぁ?ガキが先輩に何て口聞いてんだ?」

「ガキかどうか試してみるか」


美央を俺の後ろに隠すと同時に軟弱そうな手首を力一杯握って捻ってやると情けない声を出した。
横に居た連れが拳を振りかざしたのが見えて即座に対応してやろうと捻っていた手を離し、蹴りの一つくれてやろうと思った瞬間


「おい」

「あぶふっ?!」


聞き慣れた声がしたと思ったら蹴り飛ばそうとした男が吹っ飛んだ。
ふっ飛ばした張本人は竹刀を携え青いジャージに身を包んだ幼馴染で。


「義勇」

「先生だ。こいつらは俺が追い出しておく」


だからお前は手を出すな、と言いたげな義勇に渋々頷いて手首を抑えるもう一人を睨み付けた。
本当なら美央に触った手を折ってやりたいくらいだが、そんな事したら俺もただでは済まなくなる。


「義勇、悪いな」

「だから先生をつけろ…」


義勇はため息をつきながら絡んできた二人の首根っこを掴んで去っていった。
一息ついて美央に振り返ると薄っすらと涙の膜を貼った目で俺を見ている。


「悪い、怖かったな」

「違うの。ごめんね、錆兎。私がちゃんとしないから…」


ぎゅっ、と俺の手じゃなく制服の裾を握って震える美央がどうしようもなく可愛くて思わず抱き締めて、野次馬が集まってきた騒がしい廊下でキスをした。
多方面で高い声や低い声の悲鳴が聞こえたが知ったことか。


「ささささ!錆兎!?」

「虫除けだ、気にするな」


顔を真っ赤に染め上げた美央に心が満たされた俺はもう一度手を取って、学園を歩き出した。
俺と繋いでいない方の手で顔を抑えてる美央を確認して、今度は耳に唇を落としてやれば再度悲鳴が上がった。
勿論、不意打ちを食らった美央からも。

騒ぎを聞きつけたのか、野次馬の中に居た真菰が苦笑いしていたのを見掛けて軽く手を振った。
後で義勇にも美央にも怒られそうだがこれだけの虫除けができたし俺的には良しとする事に決めた。



騒がしい廊下でキス



おわり

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