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「………」


それぞれが頼みたい物を頼み、冨岡はひたすら目の前でされる会話を聞いていた。


「いいですか、冨岡さん。貴方は言葉が非常に足りない所があります。それでは月陽さんを他の誰かに取られることになりますよ?」

「…関係ない」

「関係ないって何だよ。あの月陽って隊士が好きなら関係なくなんて無いだろ。お前も男なら派手に決めろ!」

「冨岡さんは照れ屋さんなのね!素敵!」

「ただのヘタレなだけだろう。甘露寺、それよりこれを食べるといい」


元々纏まりの余りない柱ではあるが、会話の方向性的にも全く纏まりのない会話で埋め尽くされる。
まずはどこから答えたらいいのか分からないと冨岡は眉間にしわを寄せた。


「どうして、俺が月陽を好きな事を知っている」


長考した末に冨岡から出た言葉はこれだった。
好き勝手に喋っていた全員が会話を止めて冨岡を信じられない物を見るような目で見る。

それに少し引き気味になってしまった冨岡にまず口を開いたのは胡蝶だった。


「だって冨岡さん、月陽さんをずっと見つめていますから」

「見つめていたのか」

「俺は初めて見たが、あいつを見つめるお前は優しい目をしてたな。びっくりしすぎて鳥肌が立ったぜ」

「えぇ、えぇ!とっても熱い眼差しで見つめてたわ!」

「見たことが無いくらい気色の悪い顔をしていたな」


女性組の真っ直ぐな言葉と、男性組の皮肉交じりの言葉に思わずたじろぐ冨岡は言われた言葉を頭の中で繰り返していた。


「…そんなに分かりやすかったか」

「恐らく炭治郎君も気付いているんじゃないですか?」

「あいつは無駄に鼻が効くからな」


更に突き刺さるような言葉に思わず頭を抱え始めた。


「で、でも冨岡さんが誰かを好きになるのはとっても素敵な事だと思うわ」

「嫁はいいぞ。どんなに疲れてようが俺は嫁達の笑顔があれば活力になる」

「後は冨岡さんがどうしたいかによりますけどね」

「…俺は、」


想っているだけでいいと言いたいはずなのに言葉が出なかった。
最初に胡蝶に言われた、月陽を他の誰かに取られてもいいのかという言葉を思い出す。

月陽が他の男の元であの笑顔や、まだ自分の知らない顔を見せていると考えると胸が焼けるように痛い。


「どうしたらいいのか分からない」


自然と言葉に出た冨岡に四人は目を丸くして沈黙する。
基本的には冨岡が思っている事の反対に捉えられる事の多い言葉は、今しっかりとここに居る面々に伝わった。


「男らしくねぇな!そこは派手に贈り物をしてやるべきだろ」

「あ、意外と普通な答えを出すんですね」

「胡蝶お前俺をなんだと思ってやがんだ…」

「派手好きの自称祭りの神様です」

「間違ってはねぇけどよ」


バーンと効果音がつきそうなどや顔で発言したのは宇髄だった。
胡蝶達的には告白しろだの押し倒せばいいだの言いそうだと思っていたのだが、蓋を開けば普通の答えに全員が驚いた顔をしている。


「さすが宇髄さんね!お嫁さん三人も居るくらいだし、私も参考にさせてもらいたいわ!」

「甘露寺は好きな男でも居るのか?」

「居ないけど、いつか好きになった人に振り向いてもらうための手段をと思って…」

「いや、甘露寺はそのままでいいと思う」

「やだもぅ、伊黒さんてば!」


そんなやり取りが繰り広げられる中、冨岡はただ一人宇髄に言われた贈り物の事を考えていた。
鬼殺隊に所属する以上なかなか着飾る事も出来ない月陽に何を渡せばいいのか。

普段甘い物なら食べに連れて行ってはいるが、物となると難しい。


「何を贈られたら嬉しい」

「はい?」

「…喜ぶ物を贈りたい」

「ほぉ、ついにやる気になったか!」

「それならここを出て買い物に行きましょうか!」


冨岡の疑問は甘露寺の提案によって直接見に行くことになり、鬼殺隊の柱五人が街へ買い物に行くことになった。
それすらすぐに噂になったのは後の話。

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