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冨岡義勇が恋をした。
そんな話が隊内に流れていたある日の柱合会議。
「それで?冨岡さんは進展があったんですか?」
「………何の」
「月陽さんの事ですよ」
その日の柱合会議で冨岡は珍しく柱の面々に囲まれていた。
想像していない状況に内心驚く冨岡だが如何せん彼の表情筋は真顔のまま固定されている。
「はぁっ!?胡蝶お前誰だか知ってたのか!」
「えっ月陽ちゃんって冨岡さんの所の継子さんよね?確か炭治郎くんと同期の…」
「自分の弟弟子と同期の女に手を出すとはなんと気色の悪い。さっさと振られてしまえ」
「??」
想いを寄せているのは月陽で間違いは無いが冨岡はなぜ周りに知られているのかが分からずひたすら疑問符ばかりが浮かんだ。
「冨岡、お前も隅に置けねぇな!男なら派手に告白しちまえよ!」
「テメェが恋愛ごっこたァいい度胸じゃねぇか」
「不死川さん、駄目ですよ。折角この朴念仁に春が来たんですから」
いつから聞いていたのか不死川が冨岡を鼻で笑うと、至極楽しそうに胡蝶がフォローと言えないフォローをする。
「冨岡さーん!」
「…月陽」
「あっ、すみません!お取り込み中でしたか。柱の皆さんお疲れ様です!!」
タイミングがいいのか悪いのか、話の中心とされる月陽が冨岡を迎えに来た。
甘露寺は思わず口を塞ぎ、胡蝶は口元を隠して密かに笑う。
柱全員に注目されようとも、当人は嬉しそうに笑って頭を下げた。
「か、可愛いわ…!なんて可愛いのかしら!!」
「そうでしょう。月陽さんはとっても、可愛いんです。他の隊士からも人気なんですよ、冨岡さん」
「胡蝶様お久しぶりです!」
「…月陽、帰るぞ」
「えっ、えっ?でも冨岡さん、折角皆さんとお話してたのに」
「いい」
揶揄いだした胡蝶に嫌な予感がした冨岡は、困惑する月陽の手を掴み屋敷の外へ足を踏み出す。
すると目の前から炭治郎が走ってきた。
「いたいた、月陽ー!あっ、冨岡さん!こんにちは!」
「…あぁ」
「どうしたの?炭治郎」
「月陽、今から任務なんだけどこれる?」
「うん、任務なら行かなきゃだよね」
少し離れた所で炭治郎と会話する月陽を冨岡がじっと見つめる様子を柱たちは見ていた。
初めて冨岡の継子を見た者も居れば、何故こんなにも分かりやすいのに気付かなかったのかと思う者も居る。
そして面白い事になったと笑う者も居た。
「冨岡さん、すみません。私任務があるみたいで…」
「あぁ、いって」
「謝る事はないぜ、冨岡の継子!」
「宇髄様」
「これから冨岡は俺達と飯に行く予定でな!派手に鬼をぶっ倒して来い!」
申し訳無さそうにした月陽が冨岡に謝っているとそこへ宇髄が割って入り、冨岡の言葉を遮る。
勿論そんな予定など無かった冨岡は否定しようと口を開くが、もう一つ後ろから伸びてきた手にまたもや遮られた。
「さぁさ、炭治郎君に月陽さん。気を付けて行ってきてくださいね」
「はい!」
「冨岡さん、行ってきますね!胡蝶様、宇髄様、冨岡さんの事よろしくお願いします」
「おう!」
結局何か言う前に炭治郎と出発してしまった月陽の背中を唖然と見送る事となった冨岡は、恨めしそうに胡蝶と宇髄を振り返る。
「俺は、お前達と食事の予定は…」
「よし行くぞ、冨岡」
「えぇ!行きましょう、冨岡さん」
「私もご一緒していいかしら?ね、伊黒さんも行きましょう」
「甘露寺がそう言うなら行ってやってもいい」
面白がった二人に、気になる甘露寺とそれについてくる伊黒の五人で近くにある個室の食事処へ行くことになった。
最後まで抵抗を試みる冨岡だったが、体格の大きい宇髄に抱えられ無理矢理連行される事となる。
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