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「小芭内さーん」
「何だ喧しい」
「はい、おみかんどうぞ!」
先日出したこたつに鏑丸とすっぽり入っている小芭内さんの頭にみかんを置いた。
外は雪が降っていて凍えるように寒い。鏑丸は冬眠ってしないのかなと思いつつ、顎を撫でる。
「…何故食べるためのみかんを頭に置く。お前のような阿呆の考えは分からんがくだらん事をするな。そんな無駄な事をしている暇があるならみかんの皮を剥くくらいできんのか」
「ようはみかんを食べさせてほしいんですね」
「そんな事は言っていないが両手は生憎塞がっている」
「分かりましたよー」
小芭内さんは両腕を自分の顎の下に置いているからそこから両手を出すのが面倒なのだと思う。
頭に置いていたみかんを手に取って皮を剥いてあげて、白い筋を取って口元の包帯をずらしてあげた。
「はい、あーん」
「………ん」
はぁーっ!可愛い!小芭内さんが少し照れ臭そうに食べてるの可愛い。
食べさせろって言ったくせに照れるとかどういう事なの可愛いなぁ。
思わずニヤけてしまう顔を晒したままもう一つのみかんを自分の口に持っていく。
うん、甘い。
「月陽」
「はい、もう一個ですねー」
「違う。こっちを寄越せ」
「ん…ん!?」
食べさせる前にもう一つだけ自分の口に入れたら起き上がった小芭内さんに頭を固定されて、さっき食べたばっかりのみかんを一瞬で生暖かい舌がそれを奪い取る。
余りの出来事に反応できずに目を丸くしていたら舌なめずりしてニヤリと笑う小芭内さんが私を見ていた。
「だらしない顔をしているから隙が出来るんだ。これに懲りたらもう間抜け面を晒さない事だな」
「は…ちょ、何考えてんですか…死ぬ」
「死なない死なない。くだらん事を言っていないで早く次のみかんを寄越せ。鏑丸には汁を啜らせてやれ」
「うー、分かりましたよ」
「分かればいい」
私の頭を掴んだままだった至近距離の小芭内さんはやっと離れてくれた。
もう一つ小芭内さんの口に入れて、薄皮を向いたみかんの粒を指で潰して鏑丸のお口に汁のついた指を近付けてあげる。
チロチロとした舌が嬉しそうに私の指を舐める。
可愛い。
「小芭内さん、私も横に失礼していいですか?寒い」
「入るなとは言っていない」
「じゃあ失礼します!しかし今夜は冷えるでしょうね…見回りしんど…」
寝転がる小芭内さんの横に反対方向を向くように座った。
こたつとは良い文化だ。暖かくて冷えていた手足もじんわりと熱を持つ。
「お前には贅肉が無駄に付いているからな。皮下脂肪は逆に冷えると聞く。もう少し鍛えれば寒さもマシになるだろう」
「ひ、酷い!」
小芭内さんが鼻で笑いながら私のお腹を摘んでぷにぷにと遊び始める。
鍛えてはいるけど女性特有の柔らかい部分がなかなか落ちないのは、もう性別のせいにしておいて欲しい。
「……そうだな。俺が暖めるのも運動も手伝ってやらん事もない」
「え?何ですか急に。突然の地獄の稽古とか辞めてくださいね」
「安心しろ。今日ばかりは鍛錬をするつもりはない」
「…あ、急に用事思い出したから私ちょっとしのぶさんの所に」
「ほぅ。余程手酷くされたいらしいな?それとも…」
急な提案に嫌な予感がした私は折角手足が温まり始めたのも気にせず腰を上げようと試みる。
机についた両手に力を込めた瞬間、お腹を触っていた小芭内さんの手に押し倒されそのまま服の上から子宮の辺りを撫でられる。
これは不味いやつじゃないか?
小芭内さんは私を組み敷いた態勢で意地の悪い笑顔を浮かべた。
「幾らここに出しても良いように避妊薬でも貰ってくる気か?」
「っ、ほんと…恥ずかしい事言うの辞めて下さいよ…」
「安心しろ、お前を手放す気など毛頭ない。だから子を宿したって何の問題もない。その稚拙な頭で余計な事など考えず全て俺に委ねろ」
「うぅ、かっこいい。好き…お手柔らかにお願いしますよ?」
「さぁどうだろうな」
首に巻き付いていた鏑丸はいつの間にか居なくなっていて近付いてくる小芭内さんの顔に目を閉じた。
その後足腰の立たなくなった私を小芭内さんは軟弱な、と言いながら見回りを休ませてくれた。
あの人の小柄な体格にどれ程の体力があるのか未だに疑問だ。
流石柱という事なのか、いつもより機嫌のいい小芭内さんは意気揚々と見回りへ出掛けていった。
おわり。
当社比ゲロ甘伊黒さん(デジャヴ)
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