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「永津こんなもんしか食べないのか。本当にお前は男のくせに食べねぇよな」

「うるせー」

「だからチビなんだよ」

「後藤お前後で憶えてろよな」


浅葱色の羽織を着た月陽は食事をしながら隣に座った隠を睨み付けた。
人が増えるより減っていく方が多い鬼殺隊の中で、月陽と後藤は同輩だった。

付き合いも長い分こうして軽いやり取りをすることが二人のお決まりとなっている。
後藤と呼ばれた男は口元を隠す布を取って両手を合わせると自分の分の飯を食べ始めた。


「そう言えばお前最近また階級上がったらしいな」

「あーそれ。何、お祝いに上等なすき焼きでも奢ってくれんの?」

「馬鹿お前隠の給料知らねぇの」

「関係ないね」


もぐもぐと食べ進めながら二人の会話は続く。
ふと月陽の方に顔を向けると、ぷっくり膨らんだ頬にご飯粒が付いてるのが見えた後藤は仕方がない奴だなとため息をつきながらそれを取ってやる。


「ん?」

「ご飯粒付いてんだよ。ちゃんと食えばーか」

「おぅありがと」


月陽はたいして気にする様子もなく食べ進めるため、後藤は手についたご飯粒を自分の口に入れ食事を再開させる。


「…そう言えばお前さ」

「何?」

「水柱と噂になってんの知ってるか?」


揶揄い半分のはずだった後藤は、隊内の一部に流れる噂を口出す。
後藤本人はモノ好きが勝手に妄想して願望を噂にしているだけなのだと思っている。

月陽は隊士の中で人気がある。男女問わずに。
目鼻立ちがくっきりして強く穏やかな性格は女にモテたし、男にしては華奢な体で女より美しく笑う姿は男にモテた。

何度か告白されている場面も後藤は見ていたし、それをネタに揶揄うのは一つの楽しみだった。
だから水柱の件も例に漏れず揶揄う為であったのだが、飯を食べ終わった月陽は大きな瞳を後藤に向け意図の読めない表情で笑う。

今までに見たことの無い月陽に思わず胸が大きく脈を打つのを感じた。


「え、は?まじなのか?」

「だとしたら後藤は引く?」

「俺は別に偏見なんてねえけど…」

「なんてね!からかってくるから仕返しだよ」

「んなっ!」


悪戯っ子のような笑みを溢した月陽に後藤は口をあんぐりと開けた。
余程おかしかったのか食堂に少し響くくらいの声量で笑い出す月陽に徐々に負けた感が滲み出る。


「タチ悪い冗談かましやがって!」

「あはは、ごめんごめん」

「月陽」

「あ、義勇さん」

「ひっ!水柱様、お疲れ様です!!」


柔らかな月陽の頬を突いているといつの間に食堂に来たのか冨岡が突かれている反対の肩を叩いていた。
驚いた後藤は席を思わず立ち上がり、冨岡に一礼する。


「話がある」

「分かりました。後藤、俺もう行くよ」

「え!?あ、おう!」

「お前慌て過ぎ。またな」

「おぉ、またな…っは!水柱様もお疲れ様です!」


くすくす笑った月陽に一瞬見惚れていると冨岡からの鋭い視線を感じた後藤は勢い良く腰を90度に曲げた。
食堂を出ていく姿を見送るが、噂されるだけあって後藤ですらその理由が分かった気がしてしまう。


「距離近すぎじゃねぇか…?」


冨岡は月陽の腰に手を回し、楽しそうに話をする声に耳を傾けている。
傍から見たらどう考えても恋人同士の距離だ。
苦笑いを浮かべた後藤は、まだ途中であった食事に気付き気を取り直して食べ始めた。


(どうせ俺には関係ないし、どうであろうと俺はあいつの友達でいるつもりだしな)




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