1


万華鏡は綺麗だ。
筒の中だけで色々な形を作り、楽しませてくれる。


「月陽、またそれを見ているのか」

「うん。義勇が初めてくれた贈り物だから」


布擦れの音がして背中が義勇の温もりに包まれる。
普段無口な彼は私の前だけでは少しだけ饒舌になった。
胸の前で交差された腕にすり寄りながら万華鏡の中をもう一度見る。


「少し、妬けるな」

「貴方がくれた物でしょ?」

「……」

「ふふ、冗談だよ」


無言で抱き締められるのが幸せで、どうしようもなかった。
義勇に愛されて過ごす日々は、夢のようで。
炭治郎君に会ってから彼は変わった。人と関わりを持つようになった。
ぽつりぽつりと鬼殺隊の方々の話をしてくれる義勇はとても楽しそうだったから、私も嬉しくて笑顔がこぼれたの。

義勇と夫婦になる前から、鬼殺隊がどういう存在かは知っていた。
いつ帰らぬ人となるか分からない状態だからと一度は義勇から断られた事もあったけど、私がどうしても諦められなくて。

それでもいいからと、彼の帰る場所でありたいと願ったくせに。
今私は何度あの日に戻りたいと考えたのだろうか。


今、私は義勇の屋敷に一人佇んでいる。
帰ってこない彼を、ただひたすらに待ち続けている。


「義勇」


縁側に座って、彼の日輪刀を抱き締める。
義勇と一緒に最後の鬼狩りに向かった炭治郎君だけが帰ってきた時、もう彼は帰ってこないのだと理解はした。

炭治郎君より年上のくせにその場で崩れ落ちてしまった。
いっその事、後を追おうと思ったら禰豆子ちゃんに抱き締められて死なないでと言われ何日か経つ。

心配してくれて、後始末や柱の引き継ぎで忙しいはずなのに炭治郎君や善逸君、伊之助くんまで代わる代わる私に会いに来てくれる。


「義勇はたくさんの人に愛されてるのね」


彼の日輪刀に話し掛ける。
最期まで彼が側に置いた相棒を今私が握る日は望んでいなかった。

ゆっくりと立ち上がれば、殆ど食事を受け付けなくなった私は少しふらついてしまう。

――愛してる

私が完全に眠りに落ちる前に言ってくれた一言が脳内に響く。
優しく髪を梳いてくれる手がいつも不安で眠れなかった私を寝かしつけてくれていた。


「っ、う…」


胃の中が込み上げる感覚にその場で蹲る。
視界が回る。吐きそうなのに吐くものはなくただただ過呼吸を繰り返した。


「月陽さん!?」


顔を見せに来てくれた炭治郎君や善逸くんの声を最後に私は意識を手放した。




[ 4/126 ]

[*prev] [next#]
[mokuji]
[しおりを挟む]
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -