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「伊黒先輩!伊黒先輩!」
毎日俺はストーカーにあっている。
いいや、ストーカーにしては周りに認知され過ぎている。
「今日もすっごくかっこいいですね!素敵です!」
「……はぁ」
「やだー!ため息なんてひょっとして蜜璃先輩への想いが溢れそうなもがっ」
「黙れ」
勝手に一人で騒いで、勝手に一人で暴走するこいつは甘露寺のサークルの後輩にあたる。
新入生歓迎会と称して飲み会を開いていた所に俺と宇髄がたまたま出会してしまった所から何もかもが始まった。
甘露寺に言い寄ろうとしている輩に睨みをきかせながら話していると、目をこれでもかと輝かせて現れた珍獣。
こういうのをあしらうのが得意そうな宇髄は別で知り合いでもいたのかそっちと話し込んでいる。
「み、蜜璃先輩!この方は!?」
「あら月陽ちゃん!この方は伊黒小芭内さんって言うのよ」
「誰だお前は。先に自分が名乗るのが当たり前だろう。そんな礼儀もしらないのか」
「失礼しました!私永津月陽って言います!服飾学部で、蜜璃先輩と同じ体操のサークルに所属しています」
服飾だからか、どうりで服装が甘露寺に近い訳だ。
甘露寺は流行りに敏感で毎日色々な着回しをしているが、センスと言うものだろう。あらゆる全ての服を着こなし、いや。
服全てが甘露寺の為に作られたのだろう。
しかし後輩と言うだけあって雰囲気だけは甘露寺に似ている。
他意無く顔をまじまじと見るとみるみるこいつの顔が赤くなった。
「す、素敵…」
「は?」
「かっこいいです、伊黒先輩!」
随分喧しい声で俺の手を取り見つめ返してくるこいつに目眩がした。
「そうでしょう!そうでしょう!伊黒さんはネチネチしてていつも助けてくれてとってもかっこいいのよ」
「甘露寺、そんなに褒めるな」
「凄いです蜜璃先輩!そんな方とお知り合いだなんて、やはり素敵な方は素敵なお知り合いが居るのですね!」
「甘露寺が素敵なのは当たり前の事だ、何を言っている」
「やだ、伊黒さんてばー!」
「当たり前に蜜璃先輩を褒める伊黒先輩かっこいい!」
甘露寺は良いとして、このテンションが他の女から向けられるのは正直キツイものがある。
二人揃って跳ねながら俺を褒めちぎるという行為も周りからの視線を集めて面倒くさい。
折角甘露寺と出会えたと言うのに勿体無いとは思ったがこれ以上月陽という珍獣に付き合いきれない俺は宇髄を連れて別テーブルへ移動した。
それからだ、こうして講義の時以外珍獣にエンカウントするようになったのは。
「伊黒先輩、今日ご飯作ってきたんです!蜜璃先輩も来るのでよろしければご一緒しませんか?」
「行こう」
俺もちょろいものだと宇髄に言われた。
しかし俺を誘うための口実に甘露寺と食事をしている訳ではない事は元から知っているからこそついていってるだけなのだから、ちょろくない。
時折宇髄も交えて食事をしているのだから何故俺ばかりがそんな事を言われねばならないのか到底検討もつかん。
俺はただ、この料理の上手い珍獣のご飯を美味そうに食べている甘露寺の顔が見れたらそれでいいのだ。
隣で嬉しそうにはしゃぐ珍獣はついででしかない。
「私、ふと思ったんですけど」
「何だ」
「伊黒先輩と蜜璃先輩の子供に生まれたかったなって」
「ぶっ!!」
何でこいつはとんでもない事を当たり前の顔で言ってくるんだ。
飲んでいたコーヒーを盛大に俺が吹き出すと慌てて服を拭いてくれる珍獣の頭を弱めに叩いた。
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