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「嫁になりたいということか」
「…え?」
「一生ついてきてくれるのだろう?」
「え、いや、そのつもりだけど」
「なら何が違うと言うのだ」
いつの間にか背中に優しく回されていた腕はまるで逃さないというように強く拘束されている。
鏑丸も舌を出しながら私と小芭内君の首をくるりと一周して、逃れようものなら締められる気がした。
「でも、小芭内君は蜜璃さんが好きなんじゃ…」
「甘露寺は仲のいい友であり同じ柱としての同輩だ」
「ほら、文通をよくしてたし」
「そうだな。主にお前について甘露寺から話題を振られていたので返していた」
蜜璃さんは何度かこの家へ来たことがあるし、二人でご飯を食べに行ってたのはよく知っている。
ふと思い出すと、私も誘われてはいたが二人の邪魔になると適当な理由をつけて断っていた気がした。
「でも、あれ?」
「もう観念しろ。俺はお前を好いているし、お前も俺以外あり得ぬだろう」
「お、小芭内君が私を?」
そう返せば深くため息をつかれた。
な、何でため息つくの…
「お前は何か勘違いしているようだ」
「何をって?」
「俺は聖人君子でも無ければ今流行りの紳士というものではない。好いた女だからこそここまで出来たのだ。もう分かるだろう?」
「…ーっ!」
「お前のことが好きだ、月陽」
私の体を深く抱き込み耳元でそう囁いた小芭内君を初めて男の人として意識してしまう。
ずっと好きでいてくれたのに、恩を売り抱く事だって出来たはずなのに、彼は今の今まで想いを告げる事なく大切にしてくれた。
そう思った瞬間さっきとはまた別の涙が流れる。
「ほんとに…?」
「何度も言わせるな」
「私蜜璃さんの様に素敵な女性でもなければ強くもないよ?きっと小芭内君を困らせちゃう」
「それは好都合だ。俺が守ってやると言うのにお前のほうが筋力が上では申し分がたたんし、好きな女の我儘くらい聞いてやれぬようでは男じゃない」
「小芭内君…」
「だから月陽。お前の一生を俺の側で過ごしてくれないか」
小芭内君は小さい頃からいつもこうだった。私を包み込み、優しくしてくれる。
だからいつも甘えてしまう自分が居て、そんな自分が嫌だと感じた事もあった。
私の甘えすら愛しいと感じてくれていたのか。
「わたし、小芭内のお嫁さんになりたい」
「あぁ」
「これからもあなたの側に居たい」
「当たり前だ。そうなるよう、俺が仕組んだのだからな」
「もう、小芭内君てば」
得意気な顔して私の頬を流れる涙を唇で吸ってくれる。
私は小芭内君の優しさと愛に包まれて生きてきた。そう思えば思うほど、心から小芭内君を愛しいと感じる。
意図せず私は小芭内君をとっくの昔に好きになっていたんだ。
「大好きだよ、小芭内君」
「俺の方がずっとお前を愛している」
お互い土で服を汚し顔を見合わせて笑った。
とりあえずこの汚れを落としてからまたたくさんの話をすればいい。
「小芭内君、とりあえず中に入ろうよ」
「そうだな。お前の着物も汚してしまった」
「これくらいの汚れなんて朝飯前だよ」
「それは良かった。では一緒に風呂に入るか」
「え!?」
「何年我慢したと思ってる。俺ももうそろそろ我慢の限界だからな」
「わ、わわっ!鏑丸、どこか行かないで!」
結局小芭内君の押しに負けた私は二人でお風呂に入る事になった。
何度か上半身の裸は見た事がある私だけど、意識してしまってからは凄く恥ずかしくてこの先の事は二人だけの秘密。
おわり。
そして1言後書き。
伊黒さんて、我慢が凄い出来る子だと思ってる…
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