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わたしはかくれんぼが得意だった。
どんな友だちとやっても私を見つけられなかった。
間違った。殆どの友だち、だ。

だからあの日も彼以外に見つかる事は無かった。


「月陽」

「逃げて月陽」

「出来る限り遠くに」

「お前の得意なかくれんぼをすればいい。そうすれば見つからないさ。いいか、朝が来るまで絶対隠れていなきゃだめだぞ」


十も違う兄さんや姉さん、父さんや母さんは鬼に見つかって殺された。
最後まで私を守ってくれた兄さんは頭を撫でて暗い押し入れの中の天井へ置いて鬼の目を引く為に何処かへ走って行ってしまった。

おとーさん
おかーさん
おねーちゃん
おにーちゃん

皆どこへ隠れたの?
朝になって押し入れの天井から抜け出したわたしは、血濡れになった部屋に1人佇んでいた。

私はかくれるほうは得意でも、見つける方は下手くそなの。だからみんな早く出てきて。

不安と寂しさで涙が次々に零れ落ちてくる。
その時玄関から物音がした。
急いで近場の隠れ場所へ身を捻りこませる。
鬼かもしれない。兄さんかもしれない。どっちか分からない。怖い。


「月陽!!」


体を隠していた布を取り去ったのは近所でたった1人私を見つけ出せる男の子だった。

小芭内君の顔を見た途端、安心感と共に頭がくらくらして目の前が霞む。
大きな目をもっと大きくした小芭内君が私の体を支えようと手を差し出した所で記憶が途切れた。

暫くして私は血だらけの部屋で小芭内くんに抱き締められたまま目を覚した。


「良かった、月陽が無事で良かった」

「小芭内くん、あのね…皆が居なくなったの。お父さんもお母さんもお姉ちゃんもお兄ちゃんも、かくれんぼしてるのかな」


寂しいよ。そう言った私の手を握って、何かと察しのいい小芭内君は俺が居ると言ってくれた。
それからと言うもの、私はあの家を出て小芭内君のお家でお世話になった。

何年かの月日が流れて、小芭内君は鬼殺隊と言うものに所属し新しく家を建てたと言う彼の元へ連れてきてもらった。
私は小芭内君のように刀を振れもしないし、鬼に立ち向かう勇気もない。

彼の家で彼の帰りを待ちながら家事をする毎日だけど、それはそれで幸せだった。
優しい小芭内君の家政婦として、役に立ちたかった。


「帰ったぞ」

「おかえりなさい、小芭内君」

「あぁ、息災か?」

「勿論だよ。珍しく顔も服も汚れてるね。お洗濯しておくからお風呂に入っておいでよ」


小芭内君はいつも帰る時に手紙を送ってくれる。
それに合わせてご飯やお風呂を準備して彼の帰りをまだかまだかと玄関で待つ。
いつも綺麗なまま任務から帰る彼の頬を持っていたハンカチで拭いてあげれば、その手を優しく掴まれた。

どうかしたのかと彼の顔を見上げれば口元の包帯を取り、真剣な眼差しで私を見ている。
怒られるのだろうか。小芭内君に一度も怒られたことがないから少し不安になりながらも、目をそらさず見つめ返した。


「お前の仇は取ったぞ」

「…仇?あの鬼を、倒したの?」

「あぁ」


追われている時にちらりと見た程度だった私の記憶から既に討たれているかもしれない鬼を小芭内君は探し続け倒してくれたというのか。
私は自分の着物が汚れる事も厭わず小芭内君に抱き着いた。


「ありがとう、小芭内君…」

「お前のご両親や兄弟には俺も世話になった。奴を憎んでいたのは少なからずお前だけではなかったということだけだ」

「私一生小芭内君についてく!」


宥めるように頭を撫でてくれる小芭内君に抱きついたまま半ば叫ぶ形で伝える。
嬉しかった。私の気持ちをずっと汲んでいて側に居てくれた小芭内君。
これから先ずっと家政婦でいい、そういうつもりで言ったはずなんだけど小芭内君は違ったみたい。


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