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出迎えてくれた時も笑顔に違和感は感じてはいた。
しかし俺を覚えていない様子の彼女は大人びた姿と雰囲気を纏い、藤の家の人間として出迎えてくれたからだと自分に思い込ませ礼を言いたかった口を閉ざしたんだ。


それから任務がまた立て続けに入ってしまいはしたが、2ヶ月後に月陽の元へ来たが扉を叩いても誰も出迎えてはくれない。
何かあったのかと急いで塀を飛び越え中に入ると縁側に腰を下ろし、ぼんやりと空を眺める小さく細い背中があった。

死にたい。
ぽつりと口に出した月陽に声を掛けた。
俺の存在に気付いた月陽は慌てていたが、そんな事より前回以上に痩せた彼女の方に俺が内心慌てた。

本当は問い詰めたいが、彼女の中でまだ俺の存在は精々薬をくれた鬼殺隊程度だろう。
今の月陽では事情をきちんと話してくれない事は俺でも分かる。
だからとりあえずこの近辺に来た時に必ず寄る飯屋に彼女を連れ出した。
家には月陽以外の気配は無かったし、もし帰って家主が彼女へ暴力を振るおうものなら自分が殴り付けてやろうと考えもした。

しかし話を聞けば暫くは旅行に行っているから帰ってこないと月陽から聞いて少し安心する。
滞在出来るのは少しだが、俺といる間だけでも食事を取り笑顔を見せてくれたのが嬉しかった。

礼を言わなくてはいけないのは俺だと言うのに逆に彼女が礼をしたいと言い出し、当たり前の事をしただけだと断ればよかったのに俺は酒に付き合ってくれと口に出てしまっていた。
少し頬を染めて頷いてくれた月陽は、あの時のような快活さは息を潜め女性らしさがあって思わず腕を引き抱き締めたい衝動に駆られた。

我慢はしたが。
だが、結局我慢は出来なくなった。

酔っ払っては居なかったが、寝間着を纏い俺に嬉しそうに話しをしてくれる月陽が余りにも可愛く気付けば想いを告げ唇を重ねてしまった。
それから共に朝を迎え、まだ眠っている月陽の頭を撫でてやる。


「…任務か」


最小限の羽ばたきで静かに窓辺に降り立つ鴉に思わずため息が漏れそうになった。
未だ眠る月陽を起こさないように布団から出て羽織を着る。

聞けば炭治郎達が鬼に苦戦を強いられているらしい。朝になった故鬼は撤退したがまだ生きているというのなら討伐しなくてはならない。
このまま彼女を残して行くには心配だが、柱として動かない訳にもいかない。

鴉の報告によるとここか半日は掛かる村だと言う。
せめて彼女に一言告げ、改めて迎えに来ると伝えようと思い布団に戻った。


「月陽」

「…ん、はい」

「すまないが、任務が入った」


俺の声で目覚め、眠そうに目を瞬きする月陽の少し開けた胸元を直してやると頬を染めて礼を言われた。
あの男と義母は1週間ほど居ないと言っていたから、任務が終わって迎えに来ても大丈夫だろうとこちらの事情を伝える。

月陽の実家の事も手を回さねばいけないが、胡蝶辺りに頼んでおけば大丈夫だろうと後で鴉を出す事にした。

寝ていたせいか、昨夜の行為のせいか少し乱れた髪を直しながら俺に寄り添う月陽に離れ難い気持ちがこみ上げる。


「お気を付けて行ってきてくださいね」

「あぁ」

「迎えに来てくれるのをお待ちしています」


少しだけ寂しさを滲ませながら月陽は俺の首に腕を回し顔を近付け触れるような口付けをしてくれる。
物足りないと感じた俺は女性特有の柔らかい唇をもう一度だけ深く味わいこの屋敷を出発した。



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