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「月陽」

「えっ!」

「月陽月陽月陽!どうだ言ってやったぞ!!俺様に不可能はねぇ!」


胸を張って大きく笑った嘴平さんに胸の辺りが大きく脈打った。
最初の真剣な顔で私の名前を呼ぶなんて何。
不意打ち過ぎてすごく恥ずかしいし、とっても嬉しい。


「おい!俺を褒め称えろ!おい、お…」

「い、伊之助さん…」


思考回路がおかしくなってしまったのか、嘴平さんが肩をばっしばっし叩くから何となく私も名前で呼んでみたら更に恥ずかしくなってしまって両手で頬を抑える。

羞恥で目が潤んでしまったけど、急に黙り込んでしまった嘴平さんの顔を見ようと顔を上げた瞬間タコやら逆剥けやらで硬い手のひらが私の目を覆ってしまった。


「あ、あの…見えない」

「うるせー見んな」

「でも伊之助さんの手、すごく熱いの」

「っだー!!言うなボケ!」

「お願い伊之助さん、顔が見たいの」

「あーくっそ!何なんだお前!」


一度呼んでしまったら止まらなくなってしまって、何度も嘴平さんの名前を呼ぶ。
懇願するように嘴平さんの手を両手で包みながら呼ぶとヤケクソの様に大きい声を出して手を退けてくれた。

開けた視界には顔を真っ赤にして私を見る嘴平さんが居る。
何だかその姿がとても愛しくて、離して欲しいと言ったのは自分なのに嘴平さんの暖かな体温が恋しくなってその逞しい体に飛びつく。
はしたない女だと思われたかもしれないけど、ぎこち無く背中に回された腕が嬉しい。

もしかして、私嘴平さんが好きなのかもしれない。


「伊之助さんって、これから呼んでもいいですか」

「別に許可無く呼んじゃ駄目なんて言ってねぇ」

「じゃあ伊之助さんて呼ぶ」

「っ、お前といると調子が悪くなる!何でこう、ホワホワすんだ!それなのに藤のババアとも、権八郎とも違う」


伊之助さんは怒っているような口調なのに、私の背中に回した手を離そうともしない。
藤のババア?さんと権八郎さんは誰だか分からないけど、私には別のほわほわを感じてくれているなら少し自惚れてもいいのかな。


「伊之助さん」

「あんだよ!」

「もし私が伊之助さん以外とこうして抱き合ってたら嫌ですか?」

「…は?何言ってんだお前。駄目に決まってんだろ」


さも当たり前のようにそう言ってくれる伊之助さんに嬉しくて顔が綻んでしまった。
それはもしかして、


「差し出がましいかもしれませんが、その気持ちの名前を私が当ててもいいですか?」

「何っ!お前知ってんのか!」

「多分ですが」

「教えろ!」


私の体を離し、珍しく困惑している伊之助さんに微笑んで言葉を繋いだ。


「それってきっと恋、って言うのかも」

「鯉?」

「違いますよ。その人を愛し、そばに居たいという感情です」

「それが、コイってやつなのか」

「多分。私も伊之助さんに恋をしてしまったみたいなのです」


どうしましょう?と首を傾げれば更に困った瞳を彷徨わせた。流石に悪戯が過ぎたかと一人反省して肩にある伊之助さんの手を自分の手と絡ませる。


「伊之助さんが嫌でなかったら、私をあなたの恋仲にしてはいただけませんか?」

「恋仲ぁ!?」

「そうです」


その後何だかんだ色々質問攻めされた私と伊之助さんは無事にお付き合いをさせて貰うことになった。


「月陽!魚取ってきた!」


それまで玄関に置きざらしにしてあったものも、中に置いてくれるようになった。


「今日は俺が魚を焼いてやるぜー!!」

「ちょっ、家で焚き火しないで伊之助さん!」


何だかんだと振り回されてるけど、とても幸せです。
どうか彼が長生きしてくれますように。



→おわり

伊之助のアンケート急上昇お祝いに。
彼は難しい…それに何故か純愛的なものになってしまう。甘い雰囲気とは何ぞや

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