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家の裏山に人が転がってた。
その日たまたま私は山菜採りに来ていたのだけど、一瞬猪の神様かと思って驚いたのを鮮明に覚えてる。
頭の悪い発想だと自分でも思うけどあの時の私は動揺していたんだから仕方無いよね。


「あの、大丈夫ですか…?」

「…腹減った」

「私のお握りで良ければどうぞ食べてください」


恐る恐る倒れてる猪神さん(仮)にお握りを渡すと仰向けに倒れていた体を瞬時に起こして頭を取った。
首が取れたのかと驚いたけど、それは面だったみたいでとても綺麗な顔をした美男子が現われる。

大きな瞳に長いまつ毛は女子の私から見てとても羨ましいもので、お握りを貪る彼をつい見つめてしまった。


「何見てんだ」

「あ、いえ…人だったんだと思って」

「あー?当たり前だろお前阿呆かゴフッゲホッブフォッ」

「いや、その…ですよね。よろしければこちらお飲み下さい」


がっつき過ぎて米が変な所に入ってしまったのか咳き込んだ彼に水筒を差し出す。
半ば奪い取る形で中身を飲み干し空になったそれを投げ渡され慌てて受け止めた。


「おい!そこの女!」

「あ、はいっ!」

「今すぐ巣に帰れ」

「…巣?」


満足したのか膨れた腹を叩いて立ち上がった彼は剥き出しな刀を両手に持ち、私にそれを向けた。
生まれて初めて刀を向けられたのだけど不思議と危機感はなく、巣と言う言葉に違和感を示せば彼は一瞬黙って言葉を考えているようだ。


「家、という事ですか?」

「そうだ!それだ!」

「でも私山菜を…」

「てめぇの命と山菜どっち取るんだ?」


急に冷えた雰囲気とその言葉に私は一歩下がった。
命?どういう意味なんだろうか。
これ以上山に入れば殺すという意味なのだろうか。


「鬼が居る。死にたくねぇなら雑魚は帰って糞して寝ろ!」

「お、鬼…?ここにですか?」

「俺様が倒すから鬼は居なくなるが邪魔されても面倒なんだよ!権八郎に巻き込むなって言われてるんじゃ!さっさと帰れボケ!」

「わっ、分かりましたから刀を近づけないで!」


色々理解はし難いが親から夜は鬼が出ると話を聞かされていた私は彼の言う事を聞いて踵を返す。
今日は山菜うどんにしようと思っていたけど死ぬと言われてしまっては諦めるしかない。
何となしに後ろを振り返ると再び猪の面を被った彼が至近距離にいて、また驚いて足を踏み外した。

それなりに地盤の悪い山は転んでしまうとそれなりの怪我を負うくらいには石や木の根がぼこぼこと無造作に生えていて危険なのだ。
思わず顔を守りながら目を閉じた瞬間腰を掴まれ倒れた方向とは逆に引き寄せられた。


「…え」

「鈍臭ぇ奴だな」

「ごめんなさい」


猪の鼻からため息をつきながらも私を掴んだままの力強い腕は意外にも優しかった。
見た目からは考えられない思いやりに少しだけときめいてしまっていると浮遊感に襲われ思わず目の前の鍛えられた身体にしがみつく。

何事かと周りを見れば籠を持った私を片手で抱き上げているではないか。


「ちょ、ちょちょちょ!何で私は担がれてるんですか!?」

「うっせー貧弱女!黙って捕まってろ!家はどこだ」

「イタっ!?いや、家はあっちですけど自分で歩いてかえっ…!」


降ろして貰おうと藻掻いたら尻を叩かれ、思わず自分の家の方を指差すと景色が一瞬で変わったと同時に走っているかのような振動が腹に響いた。
いや、走っているかのような、ではなく彼はわたしを担いだまま走っている。


「ちょっとー!!こわっ、怖い!」

「この嘴平伊之助様が運んでやってんだ黙って感謝しやがれ!」

「意味分かんないよぉぉぉ!!!」


結局舌を噛みそうになった私は若干揺れに酔いながらも無事に家に着いたのだった。


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