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「ここは藤の紋を掲げるに相応しくないと思っている」

「…それは、」

「月陽が居るお陰で成り立っていたと言う事をあいつらは知る必要がある」


抱き締めていた腕を離し、私の袖を上げると眉間に深い溝を作る。
そこは火傷の痕や切り傷、痣などお世辞にも綺麗とは言えない私の腕があった。
見られたくなくて、袖を戻そうとするとそれを止められあろう事か冨岡様の少しカサついた唇が触れる。


「っ、冨岡様…飲み過ぎでは…」

「俺は酒になど飲まれていない」

「しかし、私は既婚の身で…」

「アレを夫と認めているのか?」


冨岡様が目付きを鋭くさせて、私の瞳を見る。
それはけして暴力を振るおうなどとするものでなく、叱ってくれる親のような視線。

思わず黙ってしまった私の腕を今度は労るように撫でてくれる。
その優しさにどんどん視界が歪んでいく。


「お前がここに居る理由が何かしらあるんだろう。話せ」


それは有無を言わせない雰囲気を纏って深い青の瞳は真っ直ぐに私を見つめていた。
思わず硬直して手を強く握ってしまった私の手には追い打ちを掛けるかのように冨岡様の手に包まれる。

月陽と名を呼ばれれば、溢れだした水の如く私はここに嫁いだ経緯と逃げ出せない理由を吐露してしまっていた。
話し終えると長いため息を吐いた冨岡様は暫く瞳を伏せている。


「あの…呆れさせてしまいましたよね」

「お前は、両親の盾となったのか」

「盾、になれてるのでしょうか」

「こうして身に仕打ちを受けている」


呆れるはずがない、と小さく呟いて私の頭を不器用に撫でてくれた。
冨岡様はご自分の非番を私などに割いてくれて、更にはこうして体や心を気遣ってくれる。
惚れるなと言う方が無理なのではないかと、この行き場のない感情を押し留めようと心臓の辺りで手を握った。


「月陽、お前の両親は俺がどうにかしよう」

「そ、そんな!冨岡様にそこまでする必要もないでしょう…どうして、まだ二度しかあったことのない私に良くしてくださるのですか」

「…2度目ではない」


そう言ってくれた冨岡様はゆっくり首を振って否定された。2度目ではない?あれより前に冨岡様にお会いした記憶はない。
どういう事だろうと見つめ返すと手のひらで視線を遮られた。


「俺は、月陽が好きだ」

「…とみ、おかさま」

「本当ならこんな事言うつもりじゃなかった。お前が幸せなら、それでいいと思っていた」


私の視界は未だに手のひらに遮られ、冨岡様がどういう顔をしているのか分からない。
そっと握り締めていた手を解き冨岡様の膝に手を伸ばした。


「冨岡様、お顔が見たいです」

「…笑うなよ」


顔を撫でるよう手を滑らせ、視界が開けると熱の篭った視線で私を見つめる冨岡様が居た。
我慢していたのに、冨岡様の気まぐれだと気持ちを誤魔化そうとしていたのに。
そんな視線で見られてしまったらもう止まれなくなってしまう。


「冨岡様、お慕いしています」


自然と口に出た言葉に冨岡様の顔が近寄って、唇が触れた。




あとがき

とても長くなりそうでしたのでここで一度切ろうと思います。
冨岡さんとの不・倫ネタ!!と言いましても夢主ちゃんの心は元々あの人にはないのですが。
次は冨岡さん視点で進めるつもりです。もし良ければ続きを読んで頂けると幸いです。
あとがきまでお付き合いありがとうございます!

アオ

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