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お粥は見た目通りすごく美味しかった。
お米を柔らかくするのに魚の出汁を使っているのか、塩や醤油も使わず優しい味がしてあっという間に平らげてしまった。

冨岡様はそれを横目で見ながら自分の頼まれた定食を完食している。


「とても美味しかったです」

「あぁ」

「こんなに優しくしてもらったのも、誰かにご飯を作って頂くのも久しぶりで…ごめん、なさい」


ぽろりぽろり、また涙が出た。
泣いてばかりの私だけど、今のは嬉し涙だから許してほしい。

お茶を飲みながら冨岡様は私が泣き止むのを待ってくれた。


「冨岡様、ありがとうございます。ご夫婦も申し訳ありませんでした」

「いいんですよ。たまにはいらして下さいね」


入り口で深々と頭を下げる私に老夫婦は頭を撫でたり、手を握ってくれたりしてその場を後にした。
何て幸せな空間だったのだろう。
屋敷に帰る道程も、足場の悪い所を歩き慣れない私の手を取ってくださった。

今日は幸せな日だ。
これから先生きててこんなにしあわせな日はもう二度と無いと思うと悲しいけれど、もしまたあの人達が旅行に行ったらあの老夫婦の所へお邪魔しに行こう。

屋敷について、冨岡様を部屋へご案内する。


「冨岡様、今日はとても幸せでした。ありがとうございます」

「いや、いい」

「何かお礼をしたいのですが、私に出来ることがあれば何でもお言いつけ下さい」


部屋の襖の近くに座って冨岡様に久し振りの心からの笑顔で言えば、また少々の沈黙。
この沈黙は恐らく冨岡様なりの思考の時間なのだと、自分なりに解釈したので大人しく待ってみる。


「酒に、付き合ってくれ」

「お酒、ですか」

「あぁ。側にいるだけでいい」


そう言って目だけを細めた冨岡様に心臓が一際大きく脈を打つ。
顔に熱が集まるのを察知した私は勿論と首を縦に振って、夕餉とお風呂の準備をしてくると手短に伝えて部屋を出た。

あの人に感じたことの無いこの高揚感は何なのだろう。きっと私自身その理由は分かっているのかもしれない。
でも私は今あの人の妻としてここに居る以上淡い期待など抱いてはいけないのだ。
そんな事をした所でただただ自分が更に絶望に追い込まれるだけなのだから。


「冨岡、様…」


それでも今だけは、冨岡様との時間を過ごしたい。もしかしたら私のこれも一時の感情で、冨岡様も傷だらけの私を思いやってくださっているだけで他意はないのだから。

そうだ、きっとそうだ。
苦しい中に手を差し伸ばしてくれる人を想ってしまうなんて、よくある話。

頬を軽く叩いて、冨岡様の夕餉とお風呂を準備するために立ち上がる。
お酒を召し上がられると聞いたし、お米は少しにしておかずを多めに作って差し上げよう。

気合を入れて、準備を始めた。





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