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次の日の明朝、その鬼狩り様は世話になったと言い残して家を出て行った。
お見送りした際にお礼を言えば無言で首を横に振って、結局傷薬もお返ししないままお見送りをしてしまった。

深く頭を下げ、彼の姿が見えなくなると義母の声が背中から聞こえる。
私を呼ぶ声だ。思わず震える肩を抑えて小走りに義母のお部屋へと向かった。

襖越しに声をかけると、珍しく機嫌の良さそうな義母が私に笑い掛けている。


「お前、あのお柱様が褒めていたよ」

「お、お柱様…?」

「全く、何にも知らない馬鹿な子はこれだから嫌になる。鬼殺隊の方々の中で最強の存在と言われているのが柱と言われるんだよ!そんな事も知らないのかい」

「申し訳、ありません」

「まぁいいさ。あの方は冨岡様と言う数あるお柱様の中で水柱を担うお方。冨岡様がお前の料理を褒めていかれた」


彼は冨岡様と言うのか。
夕飯やお布団の準備に少し会話をさせていただいたが何をお考えなのか分からない方だった。
でも、私に傷薬を差し出しあの様な姿を見てもこの屋敷の主に言わずにいてくれたお優しい人。

なんの取り柄もない私の食事を褒めて頂いたことで義母はこの様にご機嫌でいてくれている。
仮にこれが一瞬の助けであっても、痛い思いを少しでもしないで済むのなら有り難い話だ。


「ここにはたまにお柱様がいらっしゃる。くれぐれも粗相の無いよう気を付けな。少しでも間違ったら、分かるね?」

「…っ、はい…」


藤の紋を掲げる家は鬼殺隊の方にご恩があると聞いたけど、この方々はただ鬼殺隊の存在を利用しているだけと感じてしまう。
鬼殺隊の方が出入りする事によって鬼達にとっては出来うる限り避けたい場所とするはず。

義母に頭を下げ部屋を出るとニヤついたあの人が立ってた。
この顔を見るとどうしても拒否反応が出てしまい、勝手に体は震えるし鳥肌が立ちその場に立ちすくんでしまう。


「…旦那様、どうかしましたか」

「お前、冨岡様に色目を使ったのか」

「っ!?い、いえ!そのような事はけして!」

「母さんはご機嫌だが夫として妻に制裁を下さなきゃだよなぁ?!」


ゆっくり後退りながら距離を取ろうとした瞬間腹を蹴られ吹き飛んだ。
壁に当たった衝撃で懐に入れていた冨岡様から頂いた薬が落ちる。

あの人はそれを拾い上げ舐めるように見ている。


「た、ただ冨岡様に傷薬を頂いただけで…」

「お前は俺を売ったのか」

「そっ、そんな!違います!」


ズキズキと痛む腹を片手で抑え叫ぶ。
折角、折角冨岡様が黙っていてくれたというのに。

蹲るようにして座り込んだ私の髪を引っ張り上げ、顔を近づけられる。


「そうか、俺が構ってやらなかったから寂しかったんだな」

「ひっ…」

「安心していいぞ、たっぷり愛でてやるからな」


髪を持たれあの人の部屋へ引きずり込まれる。
恐怖に震えていた体は嫌悪感に変わり、顔を青ざめさせた。
どんなに床を引っかき叫ぼうともここに私を助けてくれる人は居ない。

ほろりほろり、また涙が零れた。





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