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「愈史郎さん!好きです!」

「断る!!」

「分かりました!また明日来ます!」

「来るな!」


ここ最近俺は胡蝶という鬼殺隊の女にくっついて来ている女隊士に付きまとわれている。
珠世様との時間を奪われた挙句更にはあの女に付きまとわれ続ける日々に苛々していた。

あの胡蝶にも叱られたというのに折れない女だ。


「あっ、珠世さん!こんにちは!」

「こんにちは、月陽さん。今日も元気ですね」

「はい!元気が取り柄の私ですから!」


研究の補佐としてついてきただけあって、そっちの頭は悪くない。
研究室に入った時の真剣な顔はまぁまぁだ。

珠世様には全く叶わないがな。


「月陽、そちらはどう?」

「うーん…もっと強い毒が作れそうなので少し材料を調達してきます」

「貴女を一人で行かせるのはちょっと…」

「それならば愈史郎を一緒に行かせましょう」

「え!?」


見張りを兼ねて研究の手伝いをしていた俺は突然こいつのお供を命じられ素っ頓狂な声を出してしまった。
駄目だ、そんな事は許されない。
俺の血鬼術で姿を隠し行かせればいい。

必死に首を横に振った俺を珠世様が女神のような微笑みを浮かべて下さった。
俺の願いが通じたのだと思って心を撫で下ろそうとした時、肩に美しい手を乗せてくれる。


「珠世様…!」

「薬草を探すのに人手も必要でしょう。頼んだわよ、愈史郎」

「わーい!愈史郎さんが来てくれるなら助かります!」


声にならない叫び声を上げた俺は、有無を言わさぬ笑顔を浮かべた珠世様に頷くしかなかった。
鬼殺隊の人間が居る以上珠世様から離れたくないと言うのに、こいつは…

嬉しそうに俺の横を歩く女を睨み付ければ、視線に気がついたのか困ったように眉を下げて笑った。


「大丈夫ですよ、愈史郎さん。しのぶ様は鬼が嫌いですが珠世様の事を鬼殺したりしませんから」

「あんな醜女如きに珠世様が負ける筈など無いし、俺達だってお前らは嫌いだ」

「…やはり人と鬼とでは友好は結べないのでしょうか」

「は?友好なんて結ぶ必要もないだろ」

「姿や異能の力は鬼かもしれませんが、愈史郎さん達の心は人と変わらないでしょう?」

「……それは」


言い詰まった俺の視線の先にカサついた手がある。
人間には俺達のような再生能力はない。
強い薬品に触れれば荒れるし爛れる。

けれど珠世様の美しい手とこいつの手を見比べても汚らしいとは一つも思わなかった。

必死に生きようと藻掻き、必死に生きてきた人間の手は悪くない。


「ご、ごめんなさい。知ったような口を聞いて…」

「謝るな。別に怒って黙ってた訳じゃない」 


黙っていた俺が怒ったと思ったのか肩を落としたこいつにため息をつく。
ここでお前の手が美しいと思ってたなんて言う事はこれから先絶対何がなんでも言ってやるもんかと思いながら腕を掴んだ。


「おい、何しょげてんだ。さっさと草詰んで帰るぞ、月陽」

「っ、え…今愈史郎さん私の名前…」

「五月蝿い」

「あたっ!」


頬を緩めたこいつの顔を横目で見ながらもう片方の手で目隠しの術が施された紙を強めに顔面に貼ってやった。

何だ、どうした。
おかしい。

顔が熱い。
腕を掴んだ手がドクドクしている。


「愈史郎さん」

「何だよ」

「大好きです」

「知ってるって言ってるだろ。ニヤニヤするな」


無事目当ての薬草を取り足場の悪い山を下る。
名前を呼んでから終始機嫌のいいこいつは本当に鬼殺隊士なのかと言う程能天気だ。


「おい、いい加減気を引き締めたらどうだ」

「ごめんなさい、つい嬉しくて」

「…全く、モノ好きだな」

「モノ好きなんかじゃありません。愈史郎さんは素敵ですもん…っとと!」

「ばっ…!」


馬鹿なことを言っているから気の幹に足を取られ体制を崩した。
近くに居たから難なく受け止めることは出来たが俺も伸びた幹に足を取られてそのまま尻餅をつく。


「………」

「………っ」


近い。
鼻と鼻が触れ合う程に近い距離に月陽が居る。
お互いに動き出せないまま無言で見つめ合っていると、綺麗な瞳に吸い寄せられた。

唇と唇が触れ合う、そう思った瞬間目の前にあったはずの顔は遠退き目を瞬きする。
それと同時に自分が何をしようとしていたのかと我にかえり勢い良く顔を逸らした。


「ま、前をしっかり見ろ!」

「ごめっ、ごめんなさいっ!」

「今度呆けた事をしたら二度と名前呼ばないからな。分かったか、月陽」

「は、はいっ!承知しました!」


鬼と人間で恋愛なんて馬鹿げている。
それに、俺には珠世様という存在がいると言うのに。

  
どうしてこんなに心臓が煩いんだ。


(口吸いされるかと思った…!)

(月陽が変な事を言うからだ!)



end.

愈史郎くんは最高だ。

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