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※暴力等の表現があります。
苦手な方は戻るかお気をつけてお読み下さい。





ほろりほろりと音も無く私の瞳から涙が流れる。
打たれた頬はじんじんと脈打ち、その衝撃で柱にぶつけた肩と頭がとても痛い。


「お前を嫁になんて迎えなければ良かった。良いのは顔だけで全く使えない!どうしてお前はそうなんだ!」

「申し訳…ありません」


私の実家に足繁く通い、優しい笑顔を振りまいてくれたあの人はどこへ行ってしまったのだろう。
虚ろな瞳で亭主を見ると蔑んだ目で見下される。


「ここは鬼狩り様の泊まる家だ。これからもご贔屓に守ってもらえるようお前一人で全部出来なくてどうする!」

「はい…」

「お前の汚い面など見たくない。さっさとこの部屋から去れ!!」


大声で私に怒鳴り散らすあの人に、今日も鬼狩り様がお泊り頂いている事は告げたはず。
これでは部屋まで聞こえてしまうではないか、と思ったけど私はふらつく体を必死に支えてあの人の部屋を出た。

痛い。
こんな顔では鬼狩り様を不愉快な思いにさせてしまう。少し顔を冷やす為に洗面所へゆっくりと歩いた。

冷たい水で手ぬぐいを濡らし赤く腫れた頬に当てると少し染みる。
逃げ出したいと何度思ったことだろう。
しかし私の実家はあの人に救われた貧乏な家だから、逆らったり逃げたりしたらどうなるか分からない。

着物を少しずらせば至る所に青い痣や、まだ出来たばかりの赤い痣が出来ている。


「どうやって、隠そうかな」


私は藤の家となっているここの鬼狩り様達のお世話を全てやらせてもらっている。
食事を運ぶのも、掃除をするのも、何かしらの御用がある時も全て私一人が担っていた。

口の中も少し切れている。
もう、嫌だ。

自傷気味に笑って着物を直そうとすると、鏡越しに今日部屋にお泊りいただいている鬼狩り様と目が合った。
急いで振り向くと何とも言えない表情で私を黙ったまま見ている。

どうしよう、見苦しい所を。
また打たれてしまう。


「おっ、お見苦しい姿を…!申し訳ありません!」


顔面蒼白になりながらその場ですぐ土下座をする私を彼は軽蔑した目で見ているのか、それとも不快に歪んだ顔をして見ているのか頭を下げた私には分からない。
ただただ無言が帰ってくるだけで、彼はここをは去ろうともしてくれない。

このままではあの人に気付かれてしまう。
勝手に震え出す体が抑えきる事が出来ないで居ると、肩に重みがのし掛かる。

思わず引き攣った声が出そうになるのを何とか堪えて顔を上げると、表情一つ変えない鬼狩り様が私の肩を2回落ち着かせるように叩いてくれた。


「これを使え」


そう言って、他に何を言うでもなく傷薬のような入れ物を私の目の前に置いて彼は去って行った。
後になってあの人からも、義母からも何も咎められなかったので彼は特に言いふらす事もしなかったようだ。

ここに来て久しぶりに触れた何気ない優しさにぽろりと涙が零れた。





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