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そして昼食。
カウンセラーの月陽は一足先に指定された中庭に自分の用意していた弁当を持って訪れていた。
「義勇先生とご飯なんて初めてだなぁ」
「月陽先生、すまない。待たせたか」
「あ!大丈夫ですよ!」
独り言を言っていると青いジャージに身を包んだ冨岡が走ってきた。
手には学食のサンドイッチや何やらが握られている。
「義勇先生って学食で食べてるのですか?」
「いや、いつもは炭治郎の所のパンを」
「えぇっ!」
普段の食生活に驚いた月陽は首を傾げた冨岡の様子に膝に置かれたサンドイッチの一つを取り上げ、自分の弁当を変わりに置く。
その事に今度は冨岡が驚き目を丸くする。
「義勇先生はちゃんと食べなきゃ駄目です!」
「しかし」
「そんな食生活じゃ体を壊しますよ。私のお弁当食べて下さい!」
「……っ」
勢い余ったせいか、至近距離で顔を寄せてきた月陽の顔に冨岡は赤面しながら視線を逸らす。
しかしそんな努力も虚しく勢い付いた月陽は冨岡の顔を両手で挟み無理矢理目を合わせた。
「体育教師であるあなたの身体が壊れたらどうするんですか。これからはちゃんと栄養のある物も食べて下さい」
「月陽先生…か、顔が」
「手作りが難しいと言うのであれば私が作ります」
むにゅっと冨岡の意外と柔らかい頬を摘んで見つめ合うこと数秒。
段々と距離の近さに気付いたのか月陽の顔も赤く染まり急激に距離を取った。
「ごご、ごめんなさい!私ったら…」
「いや」
初々しい雰囲気が二人の間に流れる。
ちらりと冨岡を見ると困ったように眉を下げ月陽を見つめていた。
「その、さっきの申し出なんだが」
「は、はいっ!」
「良かったらお願いしてもいいか」
そっと控え目に月陽の手を握った冨岡は目を伏せながら言葉を繋ぐ。
そんな行動に更に顔を赤く染めた月陽は必死に首を上下させ肯定の意思を伝えた。
「これも、頂く。ありがとう」
「い、いえっ…義勇先生のお口に合えばいいんだけど」
「月陽先生が…作ったものなら、それで充分だ」
表情の乏しい冨岡だが、今の月陽には今彼が本当に喜んでる事が手に取るように分かった。
そんな照れ臭さを隠す為に冨岡から強制的に奪ったサンドイッチの袋を開ける。
「お昼も時間が限られてるし、食べましょうか」
「あぁ。いただきます」
「いただきます」
黙々と食べる二人の距離はそっと肩が触れ合い、幸せそうな雰囲気が流れる。
そしてその様子を眺める影が幾つかあった。
(義勇…もっと寄れ!男ならば!)
(やだちょっと月陽ちゃんも満更でもなさそうじゃない!義勇頑張れ!)
(早くくっつけこの野郎)
「「「ん?」」」
木陰に隠れた三人はお互いの顔を見合わせ、事情を察した。
「あれ、宇髄先生も義勇の応援ですか?」
「まぁ…そんなとこだな」
「良かったな義勇、お前を応援してくれてる人は俺達だけじゃないぞ!」
そんな会話がされているとも知らない二人はたまに目が合うとふと笑いあっていた。
これからどう進展していくかはまだ誰も知らない。
(月陽先生の手料理…)
(義勇先生がちょっと笑ってる…かっこいい)
おわり。
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