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「月陽ちゃんおはよー!」

「真菰ちゃんおはよー!先生はつけようねー!」


今日は校門で服装検査の日だ。
風紀委員と風紀委員顧問である冨岡は校門に立ち、登校してくる生徒の服装をチェックする。

その生徒に混じって歩いてやってきたのはカウンセリングをしている月陽で、その姿を見掛けた冨岡は厳しく光らせていた瞳を緩ませた。


「義勇先生、おはようございます」

「あぁ、おはよう」

「私の服装は大丈夫ですか?」


くるりとシフォンのスカートをひらめかせて冨岡の前で1回転した月陽は笑顔で服装検査を受ける。
その可愛らしさに身体を震わせながら頷いて親指を立てた。


「月陽先生はいつでも(可愛らしさが)完璧だ」

「やったー!」

「月陽先生今聞こえてなかったの!?こいつの心の声!いや確かに可愛らしさパーフェクトだけどさ!!!」

「善逸君もありがとう!」


そのまま嬉しそうに二人の前を通り過ぎて他の生徒に声を掛ける月陽を冨岡はぼーっとその姿を見送り続けた。
彼女本人以外は生徒でさえ冨岡の気持ちに気付いており、言葉に出さずともその恋心を心の中で応援する者は多い。


(義勇頑張れ)

(月陽ちゃんは手強いよー)

「…可愛い」


こんな風に心情を本人も気づかないまま吐露している事すら気付いていないのだろう。
今まで恋をしたことがなかった冨岡は自分の想いに気付いてはいるものの、彼女に対して何かしらの行動をすることが出来ずにいた。

出来ないと言うよりは知らないのだ。
人との距離の縮め方が。

結局その後ほわほわとした冨岡が生徒を厳しく指導する事はなく、職員会議の為に校舎へ戻った。


「よう冨岡。相変わらず派手に拗らせてんな!」

「俺は拗らせてない」

「月陽に絶賛片想い中じゃねぇか。それを拗らせてるって言ってんだよ」


席が隣同士の宇髄が冨岡の肩に肘を置きながら揶揄いに来る。
それを鬱陶しそうに払い除けながら少し遠目に座る月陽を見つめてため息をつく。


「なぁ、折角だし昼飯でも誘ってみろよ」

「……どうやって誘うのか分からん」

「どうやってって…普通に言えばいいのさ。飯食おうぜって」

「飯、食おうぜ…」


宇髄の言葉を鸚鵡返ししながら月陽との会話の段取りを必死に想像する。
彼女は人気者で早く予約を取らなくては他の生徒や先生と昼食を取ることになってしまう。

心の中で決意を固めると、席に座ってパソコンをいじる月陽の肩にそっと触れ他の人に聞こえないよう耳元で話し掛けた。


「月陽先生」

「ひゃわっ!ぎ、義勇先生?」

「その…今日の昼食は一緒に食べないか?」


他人に聞かせないようにする為か、声を抑えた冨岡の声は少し掠れて月陽の鼓膜を刺激する。
その声に顔を真っ赤にした月陽は無言で頭を上下に振って冨岡に答えると、至近距離で小さく微笑む彼の顔を見てしまった。


(義勇先生今日もかっこいい…!)


実はこの二人両片思いというやつである。
その事に気付いているのは宇髄だけで、その光景を席で眺める彼はさっさとくっつけとため息をついた。

最初こそ面白半分で冨岡を揶揄っていたものの、段々と月陽の冨岡に対する反応を見て気付いてしまったのだ。

宇髄は頬杖を付きながらそんな二人を眺めていた。

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