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「小芭内くーん!」


クリスマスの日、お互い相手の居ない私達二人はどうせなら傷を舐め合いましょうと集まっていた。
いつも彼は待ち合わせの時間より早く来て私を待っていてくれる。


「そんなに急がなくてもいい。転ぶぞ」

「う、うん!ありがとう」

「いや」


仕事の都合上、小芭内君はスーツで私は私服。
いつもの私服より気合い入れすぎて会社で揶揄われたけど、実は片思い中な私。
気合を入れないわけがないのだ。


「行こうか」

「え、どこか決まってるの?」

「そうだが?」


さも当たり前のようにポケットに手を入れた小芭内君が頭を傾げる。
そんなに身長差のないせいか、その仕草が可愛くて私は大好きだ。
本人に言ったら怒られそうだから言わないけれど。


「も、もしや行きたい所でもあったか?」

「ううん、てっきり適当に入ると思っていたから!」

「そうか。一応、月陽の好きそうなイタリアンを予約しておいた」


ここだ、と待ち合わせ場所から近いイタリアンのお洒落なレストランを指差した。
ここは美味しいと有名な場所だ。

私はファッション雑誌の編集担当だから知っている。
今女子が告白されたいスポットナンバーワンのお店で、告白する男性達がこぞって予約してお客さんが殺到しているらしい。

それでも店内は個室だから騒がしくもなく、静かだから素敵。
写真でしか見たことないけど。

とりあえず窓側を向くように横並びの席についた私達は飲み物とパスタを頼んで眼下のイルミネーションを見た。


「わぁ…凄い」

「2階の席を取っておいてくれたそうだ。ここならイルミネーションも見えるだろう」

「ほんと小芭内君が彼女居ないだなんて信じられない」


配慮に配慮を重ねてくれた小芭内君に彼女がない理由が分からない。
たくさんの可愛い子から言い寄られてるだろうし。

でもこうして私との時間を選んでくれたって事は少し期待してもいいのかな、なんて思ってしまう。


「そんな相手が居たらいいとは思うが、今は月陽と居るのだ。それ以外の事実などどうでもいい」

「そういう所です。ほんとそういう所、ズルい」

「そうか?…まぁ確かに、この聖夜にお前を独占してる俺は他の男からしたらズルいのだろうな」


ふと見せてくれた笑みと言葉に私は心を撃ち抜かれた。
スナイパー?彼はスナイパーなの?
どうしてそんな女の子が喜びそうな言葉がポンポンと出るのだろうか。

顔から火が出そうなほど照れた私を正気に戻すように部屋を遮る扉をノックする音が聞こえた。


「失礼します。お先にお飲み物お持ち致しました」

「あ、はいっ!ありがとうございます」

「サングリアでございます」


フルーツの入ったワインはクリスマス仕様で、ツリー型のマドラーが刺さっていてとても可愛らしい。
小芭内君も同じ物を頼んだけれど、そっちにはサンタさんのマドラーが刺さっている。


「素敵ですね」

「お二人のクリスマスですからね!」

「ふぁっ…神対応過ぎてヤバい」


小芭内君はじっと珍しい物を見るかの様にサングリアをのぞき込んでいるので、失礼しましたと扉を閉めた店員さんに頭を下げた。
そんなに珍しいのだろうかと、ワイングラスを手に取って乾杯するために声を掛ける。


「小芭内君、乾杯しよっか」

「あぁ」


ワイングラスは割れやすいので触れるか触れないかの距離で乾杯した。
口に含むと赤ワインの酸味とフルーツの甘い香りが混ざってとても美味しい。

これを頼んだのも仕事の知識ではあるけれど、人気ランキングの上位に入るだけある。
割ってある為変に酔わなくて済むから後は飲み過ぎなければいいだけだ。


「初めてサングリアを飲んだがこれはいいな。流石1位なだけある」

「そうそう!実は仕事でここの特集させてもらって、ちょっとだけ知識がある…の」


あれ?と首を傾げて小芭内君の言った言葉を思い返す。
この店のカクテル人気特集は私の務める会社でしか順位を発表していないはずなのに、どうしてそれを小芭内君が知っているのだろう。

ちらと小芭内君を見ると外していたマスクを戻して顔を赤く染めている。


「読んで、くれてるの?」

「…すまん。気色が悪いな」

「ううん、嬉しいよ。私の為に調べてくれたなら、尚更嬉しい」

「月陽が、いつも仕事の話を楽しそうに話すものだからどういう事をしているのかと毎月買うようになった」

「えっ、そんなに仕事の話してた?」

「俺に女の感性は無いが、月陽が普段一生懸命にやって形にしたものを見るのはとても価値がある。少なくとも俺にとっては」


唖然とする私の手を取って顔の赤みはそのままに見つめてくれる小芭内君を見てぎゅっと胸が締め付けられる。
恐る恐る指を絡めて少しだけ震える小芭内君の声。


「好きだ」


最低限の言葉なのに、小芭内君の気持ちがそこに凝縮されていて空いた手で口元を隠した。
まさか、そんな。
嬉しくて小芭内君を見つめていると恥ずかしそうにはにかんでくれる。


「わ、私も小芭内君が好きだよっ!」

「…良かった」


手を引かれて引き寄せられた私と小芭内君の額と鼻がちょんっとくっついた。
唇じゃないのにキスしているような気分になって一気に顔に熱が集まる。


「公共の場だからここまでだな」

「ひ、ひぇっ…逆にドキドキした…」

「月陽にプレゼントもある」

「えっ、あっ!ありがとう!私からもあるの!」

「あぁ、ありがとう」


身体を離した小芭内君は懐から細長い箱を取り出すと私に渡してくれた。
それを受け取った私も急いでバックから小芭内君へのプレゼントを取り出して渡す。

お互いそれを開ければ、私の箱にはネックレス、小芭内君の箱には筆記体で書かれた名前入りの万年筆が入っていた。


「わぁ…可愛い」

「ほう、これはいいな」


お互い感想を言い合って笑い合う。
そして小芭内君はネックレスをそっと取り上げて私の背後に立った。


「下を向いてくれ」

「うん」


ネックレスを付けてくれるのだと察した私は髪の毛を横に流して下を向く。
ただネックレスを付けてくれているだけなのにドキドキが止まらない。


「いいぞ」

「ありがとう!」

「あぁ、やはり似合うな」


そっと横に垂れていた髪を耳に掛けながらうっとりと私を見る綺麗な瞳に頭がキャパオーバーになって、両手を広げ顔を抑える。


「かっ…こいい」

「そんなこと無い。今の俺は多分今までで一番だらしの無い顔をしてる自信があるからな」


元々下がり気味な眉を更に下げた小芭内君は困った様に笑った。
素敵な素敵なクリスマス。
大人の私にもこんなに素敵なサンタさんが来てくれました。



おわり。
はぁっ!鼻キス!自分で書いてて興奮してしまった!!
メリークリスマス!

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