5
「月陽」
――義勇の声がする。
私は夢でも見ているのかな。
「起きろ」
「あ、いたっ!え!?」
「やっと気付いたか」
ばしっと頭を叩かれて夢現だった私は目の前に居る義勇に目を見開く。
何で、ここに。辺りを見れば義勇と私の家にいつの間にか帰ってきてる。
「っ、義勇!」
「頑張ったな」
ふわり、と義勇に抱き締められた。
この優しい香りは義勇だ。抱き返すとちゃんと温もりを感じた。
端を切ったように私の目からは涙が流れ落ちて義勇の半々羽織を濡らしていく。
「ぎゆ、会いたかった…」
「すまない」
「私、あなたに言いたいことがたくさんあるんだよ!」
肩に埋めて居た顔を上げて、優しく私を見下ろす義勇の顔を見つめた。
あのね、と言葉を繋ごうとした私の口は義勇の唇に遮られる。
懐かしい感触に、話したい事も全て飲み込み少しの間口づけを味わった。
「…落ち着いたか」
「うん…」
あぁ、懐かしい。
私が怒ったり、話したい事がたくさんあったりしてる時はこうしてよく落ち着かされていた。
心地がいい。
ずっとこうしていたい。
「勇水、いい名前だ」
「義勇…知ってるの?」
「お前の事で知らないことはない」
「ずっと、そばにいてくれたの…?」
義勇は言葉も無く辛そうに眉を顰めて頷いた。
じゃあ、私が追おうとした事も知っているのかもしれない。
「ごめんなさい、私っ」
「俺が悪い。お前を残し何も言わず死んだ俺が悪い」
「…っ、」
羽織を掴んだ私の手が震えた。
寂しそうに、悲しそうに俯く義勇に私は更に後悔をさせるところだったのかと。
覚悟を決めていなかったのは私だというのに。
「義勇は悪くない!もし、悪かったとしても…貴方は私にたくさんのかけがえのないものを残してくれたよ」
「月陽」
「貴方が居なかったら私、こんなに幸せな気持ちになれなかった!貴方が居なかったらこんなに恵まれた友だちに出会えなかった!何より、勇水のお母さんにしてくれたじゃない」
「…俺もだ」
「だからね、義勇が居ないことはとても寂しいけどちゃんとお礼を言いたかったの」
ほんの少し薄くなった義勇の身体を私の持てる力で精一杯抱き締める。
生きている内に伝えられなかった色々なことが伝わる様に、義勇がどうか笑顔を見せてくれるように。
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