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さて問題です。
なぜ私は再び落ちているのでしょう。


答え。


「また襖ぁぁぁーーー!!!」


私は長く浮遊しながら大声を上げた。
途中部屋らしきものが有り得ないくらい攻撃をしてくるので集中を切らす事は出来ない。

精神的に疲れ果てそう。

ため息をつこうとしたその時、少し頑張れば入れそうな襖が開いているのが視界に入った。


「罠かもしれないけどこのまま落ちて死ぬよりはっ…!」


近くにあった(漂ってる?)襖を蹴って開いている方へ手を伸ばす。

後少しで届く。
そう思った瞬間管のような何かが私の腕に絡みついてその中へ引きずり込んだ。


「うわ、気持ち悪っ!」

「それは悪かったな。永恋月陽」

「……鬼舞辻、無惨…」


凄惨な状況に目を見開けば無惨の手に誰かの頭が握られている。
それが誰か分かった瞬間日輪刀を手にして距離を詰めた。


「離せ!珠世さんに触れるなっ!!」

「月陽!駄目よ!」


様子の変わった無惨に構わず珠世さんを掴んでいる腕を狙う。
奴から取り返せばもしかしたら助かるかもしれない。


「……ごめん、なさい…」

「珠世さん!!」


いつも穏やかで慈しみの溢れる珠世さんの瞳には大粒の涙が流れていた。
ひと振りで薙ぎ払われても直ぐに体制を立て直して無惨へ向かう。


「珠世さんを、泣かすな!私の大切な家族をっ…母さんを泣かすなぁっ!!」

「哀れな」

「やめて…駄目よ、月陽…!一人で戦ってはっ…」


怒りのままにもう一度日輪刀を振り翳した瞬間、嘲笑うように口角を上げた無惨は珠世さんを掴んでいた手を握り締めた。

肉が潰れる音がして、咀嚼音がして。

そして私の耳に聞こえた最後の声。


「愛してるわ…月陽…どうか、生き…」

「……いやっ、いやぁああっ!!!!」


劈くような私の悲鳴が辺り一帯に響き渡る。
珠世さんの気配がしない。

優しくて、暖かくて、陽だまりのようなあの人の気配が、しない。


「珠世さん!珠世さん!!」

「あの女も私に従ってさえいれば生かしておいてやったものを。貴様も、珠世もつくづく救いようが無いな」

「殺して、やるっ…!ころしてっ、」


不敵に笑う無惨を睨み日輪刀を再び構える。
冷静な判断なんて出来る訳がなかった。

私は二度も、自分の親が殺される所をただ見ているしか出来なかった。

不甲斐ない。
何が大切な人を守りたいだ。
この手はいつだって何も出来ない。無力だ。
私は、


「わたしは、何の…為に…っ」


殺してやりたい。
今すぐ取り込んだ手を斬り少しでも珠世さんの欠片を救い出したい。

それなのに足に力が入らない。


「……弱い」


出るのは言葉でも無く、手でもなく、足でもなく。
ただ絶望で流れ出る涙だけ。

此方へ近寄ってくる無惨に反応もせず濡れた地面を見つめる。

動かなきゃいけない。
決意したばかりじゃないか。

私は無力な上にすぐ心が折れる。
やっぱり、私に柱なんて向かなかったんだ。


「……ぎゆ、さん」


助けて。
怖いよ。

たくさんの人が死んでしまった。

私に何が出来るというの。

私は強くなんかない。
ずっと誤魔化してただけだ。
強がって何とかこの場に立っていただけ。

膝立ちしたまま動かない私の顔を無惨が掴み無理矢理顔を上げさせられる。

必死に前を向こうとしたんだ。
約束を守ろうとしたんだ。
守りたかったんだ。
守れなかったんだ。


「不甲斐ない。お前は本当に、不甲斐ない。託されたくせに何も成せず、何もせず、お前は何故生きている」

「……」

「実の親が殺され、もう一人の親をまた殺され…その時お前はいつも何も出来ない。無力だ」

「そん、なの…誰より…分かってる…」

「ならばせめて俺の役に立て。そうだ、鬼にして妾にしてやろう」


くつくつと笑った無惨に目を向けると私の釦を千切った。


「一つ言っておくが私はお前に興味は無い。お前の前世に意味があるのだ」

「わたしの、前世…」

「生まれ変わった自分の女が私に犯されると知ったらあの男は何を思うだろうか。私の手下になり、妾になり、そして子を孕んだとなれば地獄の苦しみなど可愛いものに思えるだろうな!」

「…嫌がらせって、事…?」

「あぁそうだ。私に屈辱を味あわせたあの男に報いる一番の方法!それがお前だ、永恋月陽」


私が抵抗する気力も無いと知ってなのか、床に押し倒した無惨は至極楽しそうに笑い声を上げた。

長い爪が中着の釦を一つずつゆっくり千切っていく。

吐き気がする。
虫唾が走る。


「触るな…っ!」

「まだ抵抗するか。いいぞ、イキが良いくらいが面白い」

「っ、お前なんか…お前なんかの支配下に置かれるくらいなら死んだ方がマシだ!」

「貴様一人で何が出来るというのだ?自害でもするつもりか」


手を振り払い日輪刀の切っ先を無惨へ向ける。
視界の端にかー君がこちらを見ていた。

鬼殺隊に入って長年相棒をしていてくれたあの子の視線が言ってる。

立て。義勇さんが来てくれてる。
約束をしたじゃないか。

辛いと泣くのも、苦しいと泣くのも後でだって出来る。
立ち上がって抵抗するのは今しか出来ない。


「…縁壱さんへの嫌がらせの駒になんかならない。私に触れていいのは、義勇さんだけだから!触らないで!」

「よく言った」

「っ!」


心拍と体温を上昇させ痣を顕現させる。
とにかく離れる事だけを最優先にしようと身体を翻した瞬間、大好きな声が聞こえた。





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