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僕は月陽が大好きだ。
人としても、女の子としても。
優しくて、慈しむ心を持っていてとっても素敵で綺麗な女の子。
そんな月陽と似た人と出会った。
竈門炭治郎。
僕の、初めての友達。
最初は興味が沸かなかったけど、彼を見る度に月陽を思い出した。
鬼にすら、慈しみを向けるあの瞳。
記憶の無くなった僕が見た、月陽が子どもの鬼に向けた瞳と一緒だった。
僕は月陽や炭治郎の様に優しくない。
鬼は嫌いだ。
鬼はたくさんの命を無差別に奪っていくから。
だから分からなかった。
消えていく鬼に向けるその視線が。
気に食わないとさえ思った。
正直今でも理解出来ない気持ちの方が大きい。
「無一郎ー!」
だって僕の名前を呼んで嬉しそうに笑う月陽を悲しませるから。
隊士が殉職してお館様やあまね様の心を傷付ける所も嫌いだ。
鬼が居なければ、僕は有一郎を失う事も無かったし、月陽の両親が死ぬ事も無くて、優しい彼女も刀を持つ事無くただの女の子として生きていられただろう。
折角…折角、冨岡さんのお嫁さんになれたのに。
痣のせいで余命だって決まってしまった。
だから僕は、月陽や炭治郎の様に鬼の気持ちやなった経緯に寄り添ってやる事は出来ない。
そうしてやりたいとも、思わない。
大嫌いだ、鬼なんて。
僕の大切な人を傷付ける鬼が、大嫌いだ。
「………月陽」
不死川さんと傷だらけになりながら共闘する月陽の姿を見ながら、自分に突き刺さる日輪刀を握る。
大好きな人が、大切な人が傷付いてるのを見てるしか出来ない僕も…鬼と同じくらい嫌いだ。
「…なんの為に、柱になったんだよ…」
月陽を守ってあげたいのに、また守られている。
不死川さんもそうだけど、戦いの余波がこっちに来ないように動いてくれている事くらい分かってるよ。
余計な気を回させて月陽の負担になってる。
「……あの、苦い飴だって舐めれるように、なったのに」
苦すぎて涙を流しながら帰った後、あの飴をもう一度買いに行った。
二度目はやっぱりまだ慣れなくて、顔を顰めた。
三度目も美味しいとは思えないし、長く舐めていると苦味が増して唇を食いしばった。
四度目は、少しだけ苦味に慣れて報告書を書いていたらいつの間にか溶けてなくなってた。
月陽が大好き。
大好きな月陽が好きな冨岡さんも………好き、にはなれないけど信じるに値する人だとは思えるようになって。
月陽が幸せで笑っているならそれでいいって、飴を舐められるようになったくらいに心からそう思える様になった。
なのに。
「月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間」
「月陽!不死川さん!」
柱と格子の壁がばらばらと切り刻まれて地面に落ちる。
その中で血だらけの不死川さんと月陽が息を荒げながら立っていた。
「…月陽」
なんて僕は、無力なんだろう。
彼女の心に並び立ち寄り添う事のできる冨岡さん。
公的に柱になったのは僕よりも遅かったけれど、それより前に現柱、元柱の人達と共に戦い経験を積んできた月陽と共闘出来る不死川さん。
悔しさに痛みさえ吹き飛んでしまいそうだ。
「テメェの月の呼吸とは別モンだなァ!月陽!!」
「あたり、まえです…っ!そんな事より不死川様、血が…」
「猫に木天蓼、鬼には稀血」
月陽より斬撃をくらった不死川さんを心配する声を背に口角を上げる。
「俺の血の匂いで鬼は酩酊する。稀血の中でも更に希少な血だぜ!存分に味わえ!!」
一瞬上弦の壱が足元にふらつきが出たのはそういう事か。
でも幾ら不死川さんでもあれだけの負傷はキツいはずだ。
少しでいい。
きっと片腕しか無い僕は足手まといにしかならない。
それなら二人の、月陽の盾になりたい。
さっきから柄をどれ程の力で抜こうとしても動かない刀に舌打ちする。
再び上弦の壱に向かって日輪刀を構える二人の背中を見ながらもう一度手に力を込めた。
お願いだから、僕に君を守らせて。
僕はその為に強くなったんだ。
強く、なりたかったんだ。
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