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鉄同士が打ち合い鈍い音が鼓膜を刺激する。
音のせいで耳が痛いけど黒死牟が刀を抜いた以上更に気を逸してる暇なんて無い。
「ぐっ、」
「月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍」
「月の呼吸 捌ノ型 葉月!」
嫌な予感がして手数の多い技を使えば鎌鼬のような斬撃が襲い掛かってくる。
頬や肩が少し触れただけで細やかな大小異なる刃に襲われ血が噴き出した。
打ち払うのがやっとで一気に汗が吹き出て来る。
「…悪くない」
「っ!師走!」
柄を強く掴んだ瞬間剣圧に吹き飛ばされながら何とか小刻みに散らばる刃を避ける。
「…ほう…全て…避けたか」
「巌勝さんに憧れて剣士を目指したあの人が編み出した技だ!」
「……」
「人間であった頃の貴方が大好きで、尊敬してた…そんな私の先祖が編み出した技であんたの目を覚まさせる!」
きっとこの為に私は月の呼吸を極めてきたんだ。
ここで負ける訳にはいかない。
「縁壱さんと、先祖の人に託されたんだっ!」
「…っ、縁壱…だと」
「月の呼吸…」
ここには月の光は届かない。
でも目くらまし程度なら出来るはず。
ゆっくり息を吐いて足に力を込める。
「神無月」
頸に狙いを定め無数の目が細くなった瞬間をついて鋭く横薙ぎに払う。
「っ、まだ!」
縁壱さんの名前を聞いて動揺してる今の内に攻めなければ。
頸の皮を薄く斬って終わってしまった技に空中で態勢を整える。
「文月」
「…く、」
上段斬りの連撃で黒死牟の態勢を崩す所まであと少しと見てもう一撃と拾壱ノ型の構えを取る。
凍った所で上弦の壱である黒死牟が倒せるとは思っていない。
一瞬でいい、足止め出来れば。
「っ、は」
「…見事也…私を…追い続けた永恋の…子孫よ」
目に見えない斬撃が肩を切り裂いて膝をつく。
今一体何が起きたのか。
何も見えなかったと目を見開く私にゆっくりと近付く巨体に小さく手が震える。
「さぁ…もう辛いだろう…女でありながら…ここまでよく頑張った」
切り裂かれた肩を大きな手で掴まれめり込むような嫌な音が聞こえた。
「っ、あ"…!」
「…あれの事は、忘れよ…あの方の…逆鱗に触れる…」
「わ、すれない…っ!あんたも超えて私は鬼舞辻無惨を倒す!!」
「…その辺りは弄れば、良い…」
カッ、と体の中が熱くなった気がした。
弄る?
何を?
私の記憶を?
「そんなの、嫌に決まってる、だろ!」
「案ずるな…鬼になれば…その気持ちさえ…忘れる」
「ぐ、っ」
「……哀れな娘…月の呼吸など…託されなければ…平和に生きられたやもしれぬ…」
もう一度今度は深く頸へ向かって刀を振るが掠めた程度。
痛みで意識が飛びそう。
ここで死ぬ訳には行かないのに。
「…私が…面倒を見てやる…お前なら…欠けた上弦達以上に…なれる」
「お前らみたいな人を喰う鬼になってたまるか!お前らの強さなんて幻影だ…攻撃を食らっても再生するなんて甘えから来てる強さなんて本当の強さなんて言えっ…あぁぁぁあ!!」
控え目になっていた食い込む強さが増して思わず叫んでしまう。
でもずっと言いたかった。
これだけは、ずっと。
杏寿郎さんを失った時から。
「お前たちは心が弱いから!自分より強い人間にどれだけ斬られても再生する鬼舞辻無惨の力を頼ったんだ!」
「…黙れ」
「それで自分が強いみたいな顔をするな!勝ったつもりになるな!お前たちは弱い!!」
「…お前の気持ちは…よく分かった…」
「っあ"…!」
大きく振りかぶられ壁に叩きつけられる。
意識が朦朧とする中、黒死牟がこちらに刀を向けるのが見えた。
(……義勇さん、)
悔し過ぎて涙も出ないまま身体に力が入らず地面に倒れる。
まだだ、早く立ち上がれ。
刀を握れ。
そうで無くては生きる事すら、抵抗すらままならない。
早く。
早く!
「……さらばだ、永恋の子孫…」
振り上げられた刀が見えるのに、打ちどころが悪かったのか視界が霞んで見えない。
刀を握るばかりで動かない身体に何度も動けと言い聞かせる。
義勇さんにも、愈史郎君にも、小芭内さんにも約束したんだろ。
生きると誓ったんだ。
気を失ってる場合じゃない。
「月陽に触らないでヨ」
意識が飛ぶ寸前、優しい腕に抱かれた気がしたのを最後に目を閉じた。
駄目だよ、逃げて。
一人じゃ貴女でも太刀打ち出来ない。
お願い、お願い。
誰か。
陽縁を、助けて。
Next.
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