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小芭内さんと共に鬼を斬りながら兎に角前へ進んでいく。
壱ノ型を使って大体の場所は把握出来るけど、その道へ繋がる襖なのかどうかまでは分からないのがもどかしい。


「月陽、右だ」

「はい!」


下弦程度の鬼とは言え、逐一相手にしては私達の体力が減る一方だ。
小芭内さんの太刀筋はとても特徴的だから上手く私へ合わせてくれるのは有り難い。
それだけでも体力の摩耗は避けられている。

パラパラと灰になる鬼達を眺め、作戦を立てようかと振り返ればこちらを見つめる瞳と視線が重なった。


「小芭内さん?」

「…一つ、お前に話しておきたい事がある」

「え…?」


ここまでかなりの体力を消耗したからか、少しだけ休む姿勢を見せた小芭内さんに近寄ると白と黒の裾が私の頬を撫でる。


「お前に出会えて、本当に嬉しかった」

「どっ、えっ…そんなの、私もです!」

「俺の家系は代々鬼と結託し、人や身内すらを殺し…その盗品を売って贅沢な暮らしをして来た。そんな…汚れた一族の血が流れてる」

「でも、そんなの小芭内さんが悪い訳ではないですよ」

「少しでもいい、俺は…"いいもの"になりたくて鬼殺隊に入った」


話をする小芭内さんがいつにも増して儚く消えてしまいそうで、思わず頬へ当てられていた羽織ごと手を強く掴む。


「お前や、甘露寺と居るとそんな一族の血の事も忘れてただ一人の男として居られた。憚られる心も少なからずあった筈なのに、その笑顔に惹かれてやまない」


どうして突然こんな事を話すのだろう。
小芭内さんが自分の話をしてくれる事自体嬉しくないわけじゃ無いのに、何だかお別れを言われているような気になってしまう。

両手で裾を掴むと困った様に笑った小芭内さんがもう片方の手で頭を撫でてくれた。


「月陽、生きろ。お前は幸せになるべきだ。痣が何だ、余命が何だ。お前は冨岡と、必ず幸せになれ」

「…な、んで。何でそんなもう二度と会えないみたいな言い方するんですか」

「そんな事は無い。俺は鬼舞辻を殺す為に此処へ来たんだ。泣くな、不細工になるぞ」

「もー!!馬鹿ーー!」

「ただ、話しておきたかっただけだ。お前には」


涙が止まらなくなった私を揶揄うように笑って頭を小突かれる。


「さて、そろそろ行くぞ。休憩は終わりだ」

「…はい」

「数ではこちらのが上だ、出来る限り消耗を避けつつ上弦を倒す」

「分かりました」


落ちる瞬間、義勇さんは炭治郎と一緒だったのを見た。
二人が一緒ならきっと大丈夫だと小芭内さんに頷いて進もうとした瞬間、私の足元だけ広範囲に襖が開く。


「わ、っ!」

「月陽!!」


端を掴もうと指を引っ掛けた途端落ちかけた部屋の右側から何かが迫っているのを感じる。

このままでは受け身も取れずに押し潰される可能性がある。それなら。

わざと指先を外した私に小芭内さんが手を伸ばすけどきっと迫る物体のが早いだろう。


「小芭内さん!私は大丈夫です!また、必ず合流しましょう!」

「っ、必ずだぞ!」

「はい!約束です!」


小芭内さんへ笑顔を向ける。
前を向いて。
私の笑顔で貴方が少しでも進めるのなら、いくらだって見せるから。

自分に迫る物体を避け、柵へ目掛けて手を伸ばすと急に現れた襖に飲み込まれた。


「っ、いたた!」


前のめりに畳へ飛び込んだ私は直ぐに体制を立て直す。

自分から落ちたものの、出来るだけ纏まって行動しようと言った矢先にこれだ、と辺りを見渡すとやけに広い空間が広がっていた。

奥から嫌な気配がする。


「……来たか」

「上弦の、壱」


皮膚が痛い程の殺気に歯を食いしばる。
縁壱さんと似た髪型や風格。

日輪刀を抜き構え、こちらはいつでも動ける状態だ。

ゆっくりと近寄ってくる上弦の壱、黒死牟は私に6つの目を向けた。


「…思い出した…お前は…永恋の…私の、部下だった者の子孫…」

「だからなんだと言うの」

「憐れな…男だった…」

「…、憐れ?何が憐れだと言うの…?」


無機質な声は何を思っているのか分からない。
でも、私の祖先は何一つ憐れなんかじゃない。

あの人は、そんな事を言われる為に同じ名前の呼吸を生み出した訳じゃ無かった。


「尊敬する貴方を正す為の技を作り上げたあの人を…裏切って鬼になったお前が憐れむな!」


話した事なんて一度もないけど、彼の表情を見れば生半可な気持ちで巌勝と言う人に憧れを持っていた訳じゃない。
刀も抜かない黒死牟へ上段に構え足を踏み込む。
怒りはあれど、理性を失ってはいない。


「月の呼吸、玖ノ型」


黒死牟の足元で床板を蹴り上げ視界を奪い、淡い光が宿る刀身を顔まで引いて下段から頸へ向かって放つ。
勢いで目くらましの畳が割れ僅かに目を開いた黒死牟の懐へ入り、避けられた切っ先を返し横へ薙ぎ払った。

攻撃の手を休めてはいけない。

かと言って無闇矢鱈に技を出しても、呼吸の始祖たる縁壱さんの兄。
読まれて躱されるのは予想が出来る。


「…太刀筋が…変わったな…」

「っく、!」

「永恋の子孫、月陽よ…鬼になれ…」

「鬼舞辻の部下になるなんて、そんなの死んでも嫌だ!」


伸ばされる手を大袈裟に避け、日輪刀を納める。
私が継国巌勝の月の呼吸を超えなきゃ。

託してくれた祖先と、縁壱さんの為に。


「月の呼吸、伍ノ型」

「………」

「皐月」


筋力を踏み込んだ足へ集中し、利き手である右手へ移す。
一歩引いた黒死牟へ限界まで近寄り頸へ向けて抜刀しながら狙いを定めた。




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