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それはほんの一瞬。
呆気に取られた私を置いて悲鳴嶼様の攻撃と寸部も違わぬ連携で無一郎は黒死牟の懐へ入り日輪刀を突き立てた。


「……っ、あぁぁ!!!」


血が出る程お腹から声を出して私は悲鳴嶼様と同じ方向へ飛ぶ。

何をするのか、何をしたいのか今になって察した。
きっと初めからこうする気だったんだ。
視界の端で玄弥が銃を構えるのが見えたから。

無一郎が命を懸けて作った攻撃の隙を無駄にしちゃいけない。

無意識に涙が頬を伝う。

飛び交う無数の刃が身体を傷付けようとも、この機会を逃してはいけない。

気付かなかった自分自身に怒りで刀を握る手が震える。


「っ…、…!」


涙を流しながら黒死牟を睨み付けると、困惑したような視線で私の背後を見た。

もう何だっていい。
私は絶対に、絶対に黒死牟の頸を斬る。


銃弾が放たれる音がして、玄弥の血鬼術が黒死牟の体の動きを止めた。

三人掛かりで頸を落とそうと刀を振りかざした時、何か聞こえて立ち止まる。


――避けろ。


「縁壱さん…っ!?」


咆哮した黒死牟の身体から、無数の刃が生え無数の攻撃を振り動作無しで放った。

声のお陰で私は掠めた程度に傷を負うだけで済んだけど、縁壱さんの声が聞こえなかったら間違いなくあの刃で死んでいただろう。


「……―む、いちろう…」


皆は大丈夫だっただろうかと視線を移すと日輪刀を突き立てたままの無一郎の下半身が両断されていた。


「黒死牟!!!!」


声を荒げて走り出す。
私の、大切な人を。
私の大好きな無一郎を。

怒りに任せ無我夢中で自分の日輪刀を喉元へ振るう。


「ま、だっ…!」


焼ける様な音が聞こえて黒死牟が呻いたけど攻撃はまだ浅い。

後ろへ飛び退き二人の攻撃の軌道を見ながら刀を鞘へ納め隙間を縫い再び距離を詰める。

零距離での抜刀術なら今度こそ斬れるかも知れない。


「くっ、…!」


しかし私の動きに気が付いたのか刃に邪魔されもう一度後ろへ退く。

その瞬間再度放たれた玄弥の血鬼術が黒死牟を再び拘束する。

勝つんだ。
私達は必ず。

息を吐くと同時に目を閉じれば隣に誰かの気配を感じた。

その気配は刀に添える私の手に重なり、記憶が脳内に巡る。


「月の呼吸 奥義…春月」


静かに私は刀を鞘へ納め、身動きの取れない黒死牟へ再度抜き放ち体中から生えた刃を打ち壊す。


「夏月」


振り抜いた勢いのまま身体を捻り両手を添えて下段から上段へ斬り上げれば、再び刃を再生した黒死牟の攻撃を目視する。


「秋月」


自分の残像を囮に無数の斬撃を全て撃ち落とし一瞬で背後へ周り刀を構える。


「冬月」

「が、っ…!」

背後から胸を穿き引き抜けば、黒死牟が苦しそうに血を吐いた。

ゆっくりと此方に振り向く黒死牟を見ながら日輪刀を鞘に納めていると、無数の目が見開かれる。


「…永恋…縁、壱……っ!アアアアァァ!!!」

「オォラアァァァア"ア"ア"!!!」


驚愕した瞳で私を見つめる黒死牟はお二人の攻撃を更に喰らい吼える。
そして、黒死牟の頸へ食い込む鉄球へ不死川様の日輪刀がぶつかり合い赤く染まった。


「ぐあぁぁああ!!!」

「…」


日輪刀が鞘へ納まった瞬間明るい光が黒死牟を包み、それと同時に二人の攻撃で頸が落とされた。


「…これで、良かったのですか」


いつの間にか手に重なっていた気配は無くなり、一人呟いた。

冬月は全ての感覚を奪う。
頸を落としたのはお二人で、私はその痛み全ての感覚を遮断した。

消えてしまった二人の気配に気が抜けて膝から崩れ落ち、口から血を吐く。
これが月の呼吸の始祖の剣技。

手数が多く、まさに黒死牟の月の呼吸に対抗した技。

酸欠で視界が揺れる。
でも私はまだ動きたい。

無一郎を、迎えに行かなくちゃ。

筋肉が限界を訴えているのか手足の痙攣が止まらない。
それでも私は歩いて無一郎の元へ向かう。


「無一郎…っ、!?」


早く助けてあげようと手を伸ばした瞬間、私の腕を黒死牟が掴む。


「月陽!すぐ離れろ!」

「……くっ、」


黒死牟の手はすぐに振り払えた。
斬られた所の出血が止まっていると言う事は回復に集中しているんだろう。

素早く離れた私を庇うように悲鳴嶼様の鎖が辺りを守ってくれる。


「…もう、もうやめて…」

「攻撃の手を緩めるな!畳み掛けろ!!」


ぼろぼろと涙が零れ落ちる。
私には、もう日輪刀を掴む力が無い。

攻撃の手を休めることなく動く二人を横目に私はゆっくりと黒死牟へ近付く。


「何をしている!月陽!!」

「巌勝さん…」


ぎゅるりと音を立てて頭を再生した彼へ手を差し伸べる。
腕を切り離し、無一郎の上半身が地面へ落ちても私は歩みを止めず近付いた。

目の前の彼は、最早人とは言い難い形になっている。


「貴方がなりたかったのは、本当にこの様な姿なの?」

「早く退けェ!死にてェのか、テメェは!!」


静止するお二人の声が響く中黒死牟の目が、私を捉えた。




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