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「鬼が二人?」

「アンタ時透無一郎じゃない!月陽の弟分!」

「…誰?馴れ馴れしい鬼だな」

「アタシ?…アタシ、は」


誰、そんなの聞かれるの当たり前の事。
アタシは月陽のお姉ちゃん。

お姉ちゃんみたいな?
何だろう。

あの子には言えても、他の人間には…


「なんてね。どーせ月陽のお姉ちゃんでしょ」

「な、なんで」

「手紙とか月陽本人から聞いたよ」

「月陽…」


目の前の無一郎はぼんやりとしてた目を僅かに細めた。
アタシの事を話していたなんて。

もちろん、記憶の件で話はしている事なんて予想はついた。
予想はついたけど、そんな風に話してると思わないじゃない。


「……月陽が大切な"人"だって言ってたから、僕も信じるよ」

「…うっさいわヨ、偉そうネ」

「うわ、気の強い感じ聞いてたのと一緒」

「来たか…鬼狩り…」


会話を遮るように一歩前へ出てきた黒死牟に無一郎が反応して鞘へ手を置く。
どこか朧気だった瞳は見開かれて鞘を掴んだ手も震えてる。

気持ちは分からなくもない。
アタシだって、こんな奴本当だったら相手なんてしたくないもの。


「私が…人間であった時代の名は、継国巌勝…」

「!」

「お前は…私が…継国家に残してきた…子供の…末裔…つまりは…私の子孫だ…」


目を見開いた無一郎にアタシは影の中に居る月陽の様子を見ながら、血鬼術を発動させ動向を見守る。

アタシには無一郎が継国の子孫だとかどうだっていい。
役目は月陽を守る事だから。

それでも動揺を素早く鎮めた無一郎が一歩踏み出すのを見て手を上げた。


「霞の呼吸 弐ノ型 八重霞」

「月ノ涙」


無一郎の剣捌きは悪くない。
でもだからと言ってアイツに一人で勝てるほど実力がある訳じゃない。

それは痣が出ていたとしても。


「ちょっと無一郎、アンタ出しゃばったら死ぬからアタシの言う事を…」


霞の呼吸。
お父さんが使っていた呼吸。

知っている技ならアタシが援護する事も出来る。

でも、漆ノ型は知らない。


「ちょっ、待ちなさい!」

「此方も抜かねば…無作法というもの…」

「っ、!」

「月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮」


血鬼術を引っ込めて咄嗟にアタシの身体を盾にしても大小異なる刃は無一郎の腕を持っていく。
人間は、アタシ達鬼と違って再生能力なんてないのに。


「…あ、んた、何やって…」

「月陽の香りと匂いがする。血の匂い…!」

「…永恋と…仲が良いのか…縁とは…不思議なものだ…」

「影絡繰!」


無一郎の影をアタシの糸で縛り強引に後ろへ引っ張る。
まだ体も再生しきってないっていうのに、これだから人間は…!


「何やってんのヨ!幾ら柱と言えどアイツは上弦の壱なの!」

「…柱だからだ」

「はぁ…?」

「柱だから、戦わなきゃいけない。その為に、ここまで追い掛けてきたんだから」


柄を力強く握って、ただ黒死牟を見つめるその瞳は色んな感情が見て取れた。


「月陽の気配がする。月陽は、僕が守るって決めたんだ」

「あんた…」

「もう二度と大切な人を失わない。月陽は、冨岡さんと幸せにならなきゃ。大好きだから、初めて、心から好きになった人だから…!」

「っ、無一郎…!」


縛り付けていたアタシの糸を引き千切って駆け出す無一郎の背中に、やっと再生が終わった体を必死に動かす。

援護してやらなきゃいけないのに、さっきまでアイツと一人でやり合ってたせいで身体が思うように動かない。


「霞の呼吸…」

「我が末裔よ。あの方にお前を鬼として使って戴こう」


刀を返され柱に刺し留められる無一郎に全力で上弦の壱へ向かって蹴り技を繰り出す。
血鬼術を使うにはまだ回復し切れていない。

あの子が死んだら、月陽が悲しむ。


「こ、のっ…!」

「お前も…永恋の末裔も…我等と同様あの方の鬼となれ…」

「しつこいわネ!」

「あの御方に認められず…死んだとしても…死とはそれ即ち宿命…故に…お前たちはそれまでの人間であったということ…」


無一郎の肩を貫いた刀を抜こうと伸ばした手は刻まれ、後ろの気配からの援護は空を切る。

ここまで、力の差があるなんて。


「そうは思わないか?お前も…」


そう言った上弦の壱が銃を持っている男の腕と胴を斬り落とす。
変な気配だと思ってたけど、鬼喰いをしてる人間が居たなんて。

まだ再生も開始していない腕を放ったらかしにして鬼喰い男の元へ走る。

頸を斬られたら終わる。

迫る三日月型の刃を振り払う瞬間、もう一つの気配が同時に上弦の壱を切り払った。


「風の柱か…」

「その通りだぜ。テメェの頸をォ、捻じ斬る風だァ」


無一郎とはまた違った人間。
あの子も強いけどコイツはもっと強い。


「ちょっと、そこの怖い顔!」

「アァ!?」

「アイツの刃には気を付けなさい」

「…テメェ、鬼だろォ」

「そう…。でも、月陽のお姉ちゃんよ!」


アタシはお姉ちゃん。
月陽のお姉ちゃん。

もう怯まない。

そう思って強面男の目を見つめれば舌打ちが帰ってきたからちょっとイラっとした。



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