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今日は晴れ。
私と冨岡さんはお館様の屋敷へ訪れていた。
「私まで柱合会議に参加しても良かったんでしょうか」
そう、今日は半年に一度の柱合会議。
水柱である冨岡さんは当たり前なんだけど、私にまで会議に参加するようお館様から文が届いたのだ。
数は少なくとも甲の階級には他にも隊員が居るというのに、呼び出されたのは私だけ。
正直に言いましょう。
めちゃくちゃ緊張する!!
「どうしましょう冨岡さん、私皆さんと仲良くできるでしょうか」
ひたすら無言の冨岡さんはいつも通りなので一方的に不安を吐露する。
柱の方々にはお会いしたことがある人も居るけど、岩柱の悲鳴嶼様や炎柱の煉獄様、風柱の不死川様に恋柱の甘露寺様には会ったこともない。
噂に聞けばかなりの個性的な面々と聞いているし、1人1人ならまだしもあの場に集合した状態で私は対応できるのだろうか。
胡蝶様や宇髄様、伊黒様にお会いするのは久しぶりだし楽しみでもあるけど会議だからそんなお気楽気分で行く事は許されない。
当たり前だけども。
「落ち着け」
「落ち着けませんよ!私にとっては冨岡さん含めて手の届かない範囲に居る方々ですよ!」
「…お前は柱候補だろう。胸を張れ」
相変わらずの無表情で私の様子を見聞きしていた冨岡さんは呆れた目線だけを寄こしている。
心臓がバクバクしていて呼吸が上手くできない。お館様は何をお考えの元私を呼んだのだろうか。だったら一人でお館様とあまね様に面談する方のが余程楽だ。
いや、それはそれで失礼かもしれないがお館様たちはまともなお方なのでという意味です。
「あら、冨岡さんと柱候補の子ね!」
「…お前も居たのか」
「あっ、伊黒様!お久しぶりです。それに恋柱の甘露寺様ですね。初めまして、永恋月陽と申します」
桃色が毛先にかけて美しい黄緑色した豊満な女性は甘露寺様だ。
聞きしに勝る美しさ…私が自己紹介をすれば様なんていいわよ、と愛嬌たっぷりに話し掛けてくれる。天使か。
伊黒様は冨岡さんを冷たい目で見ながら私に近寄って来る。
どうしたのだろうかと首を傾げたら首元に顔を近付けられた。
突然の行動に驚いた私と甘露寺さんに、少し離れていた冨岡さんからは無言の圧力を感じる。
「消えたようだな」
「へ!?」
「い、伊黒さんたら!大胆ね!」
「何がだ?」
襟を引っ張られ露わになった首筋に伊黒様が頷いていると、なぜだかキュンキュンしている甘露寺様が慌ててその手を離そうと手を伸ばす。
伊黒様が何を言いたいのか察した私は首筋を見ている事に関して特に気にはしていなかったのだけど、手を離して貰えるのは有り難いので甘露寺様にお任せしようとした瞬間、別の手が伊黒様の手を払い落とした。
「…何のつもりだ、冨岡」
「軽々しく触るな」
「お前は永恋の監督者なだけだろう、俺の手を触るな不快だ。永恋に触れようが触れまいが貴様には何の関係もない」
「ちょっ、伊黒さん!やめましょう?」
「冨岡さんもどうしたんですか、らしくないですよ」
会って秒しか経ってないのにこの不穏さは何なんだろう。
伊黒様が冨岡さんを嫌っていることは知ってるけど、冨岡さんはそんな事なかったはずなのに。
私と甘露寺様で二人を引き離そうと互いに背中合わせになって視界を遮る。
「甘露寺、退いてくれ」
「い、嫌よ!好戦的な伊黒さんはとっても素敵だけどこんな所で喧嘩は良くないわ!」
「冨岡さん、あっちに行きましょう?ね?」
「…あぁ」
伊黒様は甘露寺様の手を優しく引いて退けようとしていたので、とりあえず距離を取ることが一番だと考えた私は冨岡さんの手を掴んで門の方へと導く。
意外とすんなり冨岡さんは頷いてくれたけど、伊黒様があんなに怒るとは思わなかった。
そんなに手を払い除けられたのが気に食わなかったのかな。
甘露寺様が仲裁に入ってくれたというのに止まる気配が全く無い。
「冨岡さんも駄目じゃないですか、いきなり人の手を叩き落としちゃ」
「俺ではなく伊黒を庇うのか」
「そうじゃありません。私は大丈夫ですし、何より甘露寺様が止めてくれようとしてたじゃないですか。もう、こんな感じで緊張を解さないでくださいよ」
伊黒様の声が聞こえない所まで移動した私達は繋いでいた手を離すと、冨岡さんの羽織を崩れてもいないのに直しながら話す。
真顔の冨岡さんが何を考えているかは分からないけど、首筋を露わにされた私を気遣ってくれたような気がするのでほんの少し嬉しい気持ちはあった。
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