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あれから私達は無事怪しまれる事なく電車に乗り難無く浅草についた。
列車に乗るのは隊員になってからだったけど、何度か乗っていた為滞る事なく快適に現地へ到着した私達は一度お世話になる藤の家へ向かう。


「冨岡さん、お昼どうしましょうか」

「荷物を置かせてもらったら探す」

「了解です」


藤の家の目星は付いているのか、冨岡さんは真っ直ぐ前を向いて歩くのでそれを見失わないように追い掛けながら賑わう町並みを見渡す。
父さんと母さんと一度来てみたかった。

柱までとは言わないが、甲のお給金もそれなりに頂いている。
しかしながら、鬼狩りで忙しい日々で日用品以外使う宛もない為使う先を持て余しているのだ。

父さんと母さんのお墓は初めてのお給金で土地を買い、寺のきちんとした場所に埋めてもらい経を読んでもらった。
珠世さんにお土産でも買おうか。しかしあの人が今どこに居るのかは不明で、鴉を送ろうにも手段がない。

そんな事を考えていたら意外と早く藤の家へ着いた。
この町中では珍しい風情のある佇まいの藤の家で、少しだけ安心する。
田舎育ちにはやはりこっちのが居心地がいいのだ。

一室をお借りし、着替えてこいとのお達しに私は久方ぶりに着物に袖を通している。

少しだけ紅を塗って、如何にも町娘を装った。
化粧したのも何時ぶりだっただろうか。

財布と日輪刀の入った竹刀入れを再び抱えて冨岡さんの部屋へ訪問する。
さすがに私もお腹が減った。


「冨岡さーん」

「あぁ」


私の呼びかけに冨岡さんは隊服のまま出てきて無言でこっちを見ている。
な、何だ。変な格好してるつもりはないんだけどな。

見られるがまま私も見つめ返していると、冨岡さんの右手が伸びてきて紅を塗った唇を優しく触られた。


「悪くない」

「ひぇ…」


冨岡さん顔が良いんだからそんな恋人にする仕草をしないで欲しい。
さすがの私だって照れてしまう。
小さい悲鳴を漏らしながら羞恥心に堪えようと目を強く瞑った。

ふと紅を優しく触っていた冨岡さんの手が止まり、沈黙が訪れる。
瞬間ゆっくりと私の肩に手を滑らせ何かが顔に近付いてくる気配を感じた。



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