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※オリジナルキャラのみの話になります。
どうしてあの時家に居なかったのだろう。
どうしてあの日私は隣町へ買い物へ行ってしまったのだろう。
両親が夫婦になった記念の日だと聞いて、少しずつ少しずつ貯めた小遣いを持って私は出掛けたのだ。
揃いの箸でも買ってあげたいと考えていた。
家の隣にあるちっぽけな田畑を耕し、それを売って生活をしているようなどこにでもある家庭
だ、と思っていた。
私が五歳になった日、父と母は刀を贈ってくれた。
その日から、どこにでもある家庭という言葉は私の家族にとって相応しくない表現となった。
私にとって辛い辛い毎日が始まったから。
「父さん!父さん!置いて行かないで!」
「月陽、父さんは家で待っている。自分の足で、夕暮れ前に帰れるよう走りなさい。ここから先、父さんはお前を一切助けない」
「なんで!!どうして!?」
「呼吸を乱すな。恐怖に負けるな。そうすれば、夕暮れまでには家に帰れるだろう」
そう言って父は目の前から一瞬で姿を消した。
その日を境に優しく私を抱きしめ、手を繋いでくれた父も母も居なくなってしまった。
「こわいよ…父さん…母さん…」
鬱蒼とした森は日中であっても小さな私にとってそれはもう怖くて怖くて仕方の無い空間だった。
恐怖で呼吸が浅くなり、きちんと足を進めることも出来ず、ようやく家に辿り着いた時には体全体が傷だらけだった。
なんで、どうして。
そんな疑問が解消される事はなかったし、だからと言って両親が理由を教えてくれることもなかった。
傷だらけで帰ってきた時は、いつも母さんが眉間に皺を寄せながら手当してくれてた。
疲れ果ててご飯すら食べずに家の前で倒れ気を失うように寝てしまった時に浮遊感と共に一度だけ聞いた、ごめんねの言葉。
その時の私は母の袖を小さく握ってただただ落ちてくる瞼に従うしかなかった。
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