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「月陽!」

「はいっ!」


夜空に月が上がる頃、私達は見晴らしの悪い森の中で鬼を追い掛けていた。
血鬼術がまた面倒くさい鬼で、幻影をいくつも作り攻撃してくる。

付かず離れずの距離を義勇さんと取りながら作り出された身体の大きい幻影を一体ずつ倒していく。


「捌ノ型!葉月」


二体をおびき寄せた私はその身体を八つ裂きにするけど、他の幻影が消えた様子はない。
外れだとその場から飛び退き、向こうで刀を振るう義勇さんもハズレを引いたらしく私に向かって首を振った。


「シね!」

「っ、」


突如背後から現れた鬼に身を屈めて鋭利な爪先を避ける。
その反動で腕を蹴り鬼の態勢を崩し、刀を地面に刺して1回転するともう一つの日輪刀で首を落とした。


「…こっちもはずれ。本体は一体どこなの」

「大丈夫か」

「はい」


抜いたままの父さんの日輪刀を納刀して、もう一度しっかりと自分の刀を持ち直す。
こればかりを繰り返していても私達の体力が削られていく一方だ。
向こうはそれを狙ってるのだろうけど。


「義勇さん、どうしましょうか」

「そうだな。追うばかりではこちらが不利だ」

「隊士達にも被害が出てるようですしね…」


元々私達は別の場所で任務をしていたのだけど、予想外にこちらの鬼が手強いと救援を貰って駆け付けていた。
何人か殺されたとかー君から報告を受けた私は眉を寄せる。


「月陽、全員を一箇所に集めろ」

「逃げてしまわないでしょうか」

「あいつは数で押せば勝てると思っている。現に現れ続けるこいつらが証拠だ」


横から襲ってきた鬼をひと振りで頸を落とし、刀を納める。
私は義勇さんの指示に従いかー君へ伝令を托して飛ばし、集合する場所へと義勇さんと歩く。


「やれるか?」

「頑張ります」

「頼むぞ」


義勇さんの言葉に私はしっかり頷く。
作戦は大変簡潔なもので、集まる隊士を襲ってきた本体と幻影を私と義勇さんで一気に斬るというなかなか骨の折れそうな内容だった。

技の連発は免れないなと気合を入れて頭の中で自分がどう動くか考える。

私達が着いた頃には少しだけ人数の減った隊士が疲労感に顔を歪めて指示通りに一つの場所へ集まっていた。


「揃いましたか?」

「あっ!水柱様に永恋さんだぞ!」

「はっ!あと一組さえ来れば全員が揃います」

「…そのようだな」

「皆さん刀を構え伏せていてください。おまけ付きですよ」


私と義勇さんは前方から命からがらにこちらへ向かってくる隊士達へ向かって日輪刀を構えた。

その後ろには何体かの鬼もついてきている。


「義勇さん、後方を頼みます」

「わかった」

「たっ、助けて…!」

「月の呼吸、参ノ型…弥生」


踏み込んだ右足に力を込め一瞬で隊士達の後ろへ飛ぶと、二体の鬼の頸を飛ばした。
幻影はその場で消え、囲むように集まる鬼と一度距離を取り集中して倒すべき数を確認して刀を構える。

後方の複数体は義勇さんが倒してくれる、だから私は目の前の事だけに集中すればいい。


「全集中 拾壱ノ型…霜月!」


視覚で確認できた八体に向かって刀から出た氷柱の刃を飛ばす。
身体が凍れば放っておいても死ぬ。


「う、うわぁ!」

「…見つけた本体!」


幻影に私達が集中していると踏んだ鬼は中央に集まる隊士たちの元へ襲いかかっていた。
私はすぐに身体を翻し、同じ様にして向かっている義勇さんと頷き合う。


「肆ノ型 打ち潮」

「陸ノ型っ、水無月!」


嫌に図太い頸を二人で斬りつける。
岩が落ちたような振動と共にその鬼が灰のようにぼろぼろと消えていくのを見守りながら、刀に付着した鬼の血を振り払った。




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