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「捌ノ型、葉月」


私は今、自分の体力の限界と言うものに挑戦している。
竹林で様々な罠を掻い潜り、時には切り落とす。

義勇さん監修の罠だけあってとてもえげつなく隙をついてくる物がたくさんで、気を抜けない。


「拾壱ノ型、霜月!」


ふと背後から複数の気配を感じて、それを凍らせ落とすとその場から飛び退き義勇さんの待つ山の麓へ走る。

霜月はやっぱり消耗が大きい。
少しだけ呼吸が乱れてしまったけど、直ぐに整えて落とし穴が張られている地面を踏まないよう木の上に飛び上がる。


「義勇さんて、ほんと頭いいなぁ」


飛び上がると分かっていたかのように、私が乗った枝は細工がしてあった。
崩れ落ちる足元にすぐさま体勢を変え別の木に飛び移る。

ふと気になって折れた枝の下を見ると大きな落とし穴があった。
これ、もし落ちてたら相当やばい仕掛けとかあったのかなとか考えてしまう。


「っ!」


とりあえず先を急ごうと木の上を飛び移って移動していると細い丸太が何本も私目掛けて迫ってくる。
鞘にしまった日輪刀に手を掛け集中して、地面に降りた私は丸太を迎え撃った。


「拾弐ノ型、師走」


最近会得した、斬る訳ではなく受け流す型。
全ての丸太を受け流し、一息つく。ただの斬撃だけでは突破できないように作られていて、型を出させるかのような罠に容赦のなさを感じた。

義勇さんはこうして鍛錬してきたと言っていたけど、なかなかにキツイものがある。


「でも、義勇さんの所まであと少し!」


駆け出そうとしたその時だった。
私がいなした丸太の重みで罠が反応したのか、更に本数と大きさの増した丸太が私に向かってきてる。

これは、試されているのかな。
私は深く息を吸って腰に下げたもう一本の日輪刀を抜く。


「全集中…終ノ型、月詠ノ舞」


身体を捻り回転を掛け舞うように日輪刀を振る。
鎌鼬のような斬撃が全ての丸太を落としたと思った時、最後の一本が遅れて飛んできた。


「っ、弥生!」


寸前の所でそれを斬り落としたけど、技を出すのが遅れたから頬に少しだけ割れた丸太が掠ってしまった。
まさか終ノ型を出させた後にもう一度罠が向かってくるとは思わなかった事に、自分の意識が足りないと言う事実に苦笑を漏らす。


「恐ろしい人ですね、義勇さん…」


流石は柱だと思う。
私の性格を細かく観察し、動きをある程度読んだ上で罠を仕掛けているというのだから。

これ一般隊士なら死んでますよ、義勇さん。
まぁ私向けに作られたのだからある程度難しくて当たり前なのかもしれないけど。

とりあえず私は足を踏み出し再び義勇さんの元へ走る。
体力の限界を知るということでその後も罠は張られていた。

息も切れ切れに開けた場所へ出ると義勇さんがその場で立って空を見上げている。


「ぎ、義勇さんっ!」

「…どうだった」

「しんどいですっ…!」


ちょっとだけ耳鳴りがして、息は今必死に整えている。
今まであんなに型を連発する事なんて無かったし、初めに壱ノ型は使用不可とされていたから四六時中気を張っていた。

多分十三ある型の中で使った物は睦月と水無月以外全てだと思う。
要は使える型全て2回以上は出している。


「良くやったな」

「死ぬかと思いましたけどね」

「終ノ型は出せたか」

「はい。けどその後で…」

「技を出すのが遅れたんだな」


私に近寄った義勇さんが切れた頬を優しく撫でてくれた。



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