1
義勇さんに初めてを捧げた日から数日。
いつも通り鬼を討ち、見回りをして家事をする日が続いていた。
「月陽、手紙ダ」
「かー君」
縁側で義勇さんと休憩してると、かー君が手紙を持ってやってきた。
腕を上げるとそこへ止まって足に括り付けられている紙を渡してくれる。
そこには伊黒様からだった。
「伊黒様だ」
「…なんて書いてあるんだ」
「えー、遠出の任務と旅館の案内が書かれてます」
「?」
私の膝枕で横になっていた義勇さんに問われて手紙の内容を要約して話した。
北の地にて鬼の情報を得たそうだが、伊黒様は他の任務で別の場所に向かわないといけないから代わりに私達に行ってほしいとの内容だった。
そこまでは何となく分かるけど、この旅館の案内というのはどういう事なのだろう。
義勇さんも分からないのか首を傾げながら手紙をのぞき込んでいる。
「とりあえず出発の準備をしますか」
「そうだな」
飲んでいた湯呑みを片付けて、2つの形見へ手を合わせる。
心の中で挨拶をし、この前買った襟巻きを箪笥から取り出して首に巻く。
「さて、行きますか」
伊黒様からの手紙を懐に入れ、部屋を見渡す。
忘れ物はないかと腰回りをパタパタして確認していると、私の部屋が叩かれ振り向くと義勇さんが襖を開けていた。
「どうかしました?」
「部屋に忘れていた」
「あっ!ありがとうございます」
何か落ち着かなかったのはそういう事だったのか。
形見の首飾りを持って私につけようとしてくれる義勇さんにお礼を言って、つけやすいよう下を向く。
ちゃり、と音がなってつけ終わったのだと思った瞬間に首筋に唇が触れる感触に思わず肩を震わせた。
「な、何してるんですか!」
「無防備に晒しているから」
「これから出掛けるんだからやめてくださいー!」
「……」
「落ち込まないでくださいよ」
真顔で私の顔を伺う義勇さんの頬を両手で包んでむにっと押しつぶす。
唇が突き出た義勇さんに思わず笑ってしまったから誤魔化すように口付けをして手を取った。
「さ、切り替えて行きましょうか!」
口付けで満足してくれたのか義勇さんは無言で頷くとそのまま手を絡めて玄関へ向かう。
この家を出たら私達は鬼殺隊として任務に向かうから、気持ちを切り替えなくちゃいけない。
他の恋人達のように道中を今の様に手を繋ぐわけにもいかないから、ほんの少しだけでもこうしてくれる事が私には嬉しかった。
「と言うか義勇さん、その格好でいいんですか」
「あぁ」
「そうですか」
どこに行くにも変わらない義勇さんは水の呼吸の使い手だから寒さは大丈夫なのだろうかなんて頭の悪いことを考えながら靴を履いた。
北の地までは列車に乗って向かう予定だと義勇さんから聞きながら都会まで歩いて向かう。
途中昼食を取り、列車に乗れば伊黒様が教えてくれた鬼の元まではすぐだ。
「伊黒様は何かあったんでしょうか」
「伊黒の事だ、きっと大丈夫だろう」
「そうですね」
けして多いとは言えない会話をしながら走り出した列車からの景色を眺める。
もう一度懐から伊黒様の手紙を取り出し、旅館の名前が書かれた所を読んだ。
「…その旅館が気になるのか」
「ここに泊まれみたいなことが書かれてますしね」
藤の家が無いから手配してくれたというのだろうか。
うーんと悩んでも結局解決はしなかったので考える事をやめる。
「夜は寒いでしょうね」
想像するだけでぶるりと体が震え、腕を擦った。
←→