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「っ義勇さん、義勇さん!」

「……なんだ」

「これっ、いつまで続ければいいんでしょうかっ!」


1ヶ月後傷や骨が完治し、機能回復訓練を合格した私は義勇さんに言われて重りをつけた日輪刀の素振りをさせられていた。
こうなった原因は先日の私の発言なのだけど。

あれは2日前の事。


「そう言えば、あの時必死だったので良く覚えてないんですが終ノ型を打てた気がするんです」

「…終ノ型?」

「えぇ。一本では足りないと思って、父さんから貰ったこっちの日輪刀も使ってこうズバーっと…あっ」


右手は自分の日輪刀を通常時の様に構え、左手は父さんの日輪刀を逆手に構え舞うように右へ回転する。
すると左手で持っていた日輪刀がすっぽ抜けて義勇さんの横を飛んでいく。

流石の義勇さんも目を見開き首の角度をずらして避けた。


「……っ!?」

「ご、ごめんなさい!握力が…」


数本義勇さんの髪が散り、急いで駆け寄った。
右手が利き手の私だが基本的に構える時は両手で日輪刀を持っている。
片手で振り切るには左手の握力が足らないらしい。

黒死牟の時は恐らく火事場の馬鹿力と言うものだったのだろう。
兎に角終ノ型を使えるようになるのは左手の握力を上げなくてはならない、と言う事で筋力向上の鍛錬をしているという訳だ。


「右も左も片手で扱える様に握力を上げろ」

「うっ、それは私に筋肉達磨になれと…」

「終ノ型を使えるようになりたいのならやるしかない」

「…宇髄様の様になっても好きでいてくれますか?」

「………当たり前だ」

「時間差あった!?」


どうやら私が宇髄様の様になったら義勇さんに振られるらしい。
ちょっと悲しみに暮れながらもう少し素振りをしようと両手に日輪刀を持てば肩を引かれ後に倒れた。
勿論引いた本人の胸板に倒れ込んだだけなのだけど。


「ちょ、危ないですよ!」

「冗談だ」

「何がですか?」

「俺が月陽から離れることは無い」


両手に刀を持った私を背中から抱き締める義勇さん。
とってもその言葉は嬉しいけれど、私が持っているものがモノなので雰囲気なんかない。

雰囲気なんて無いのに耳元に口付けをしないで欲しい。


「…っん、もうやめて下さいって」

「辞めない」

「刀持ってるんですよ…」

「…………」


両手に持った日輪刀を持ち上げて見せると義勇さんは口を軽く尖らせながら、両方の塚を握って鞘へ納めた。
二人羽織のようだと思ってしまったのは秘密にしとこうと思う。


「甘えん坊さんですか?義勇さん」

「……」

「じゃあ休憩にします。お部屋上がりま、しょっ!?」


無言の義勇さんにいきなり抱き上げられ、宥めようとしていた私の手は思わず彼の首に回していた。
いきなりばっかりで心臓にとても悪い。
文句の一つでも言ってやろうと思って顔を義勇さんへ向けたら熱の篭った視線に自然と開こうとしていた口を閉じてしまう。


「…月陽」

「え、うそ、ちょっと待って!まさか」

「抱きたい」


居間に押し倒した私の靴を無理矢理脱がせて外へ向かって投げる義勇さん。
お行儀が悪いと普段なら一言言うところだけど、今はそれどころじゃない。

私の手首は義勇さんに痛くない程度の力で抑えられている。


「ちょ、いや…まだ日中ですし、私お風呂入ってないからやだっ!」

「夜で風呂に入ってればいいのか」

「そうですね…じゃなくて」

「もう、限界だ」


切なそうに呟いた義勇さんに思わず黙ってしまった。
勿論お付き合いしてる以上、こんな日が来るなんて事は分かっていたし了承もしていたんだけどいざこうなると何となく怖い。

療養している時に義勇さんに抱くぞ的な宣言も受けたのも覚えてる。
でも、心の準備がまだ出来ていないのだ。


「…義勇、さん。ひとつだけ、わがまま言いたい」

「何だ」

「お願い、夜まで待って下さい。それまでに身体も綺麗にしておくし、心の準備をするから」

「……分かった」


ちょっとだけ震えてしまった声に義勇さんは頷いてくれると身体を離してくれた。
結構渋々な感じがあったけど、とりあえずこの場を切り抜けたことに安堵の息をつく。


「ありがとうございます」

「いい。俺も急だった」


――だから、今夜楽しみにしている。
そう言って義勇さんは居間を出てって行ってしまった。



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