1
黒死牟との遭遇で満身創痍になった私は、義勇さんの強い希望により屋敷で療養を許可された。
許可されたのはいいのだけど、それによって今まで私が請け負っていた家事を全て義勇さんがする事になってしまってとても心苦しい。
「月陽は休んでていい」
そう言って義勇さんは意外とテキパキと家事をこなしながら私の看病もしてくれている。
お付き合いをしてから数日しか経っていないのにこの体たらくは本当に精神的に辛い。
「うぅ、ごめんなさい」
「謝る必要はない」
「でも、折角お付き合いしたばかりだというのにこんな事をさせてしまうなんて」
現在私の体を義勇さんが拭いてくれている真っ最中。
最初こそ必死にそれだけは勘弁して欲しいと言ったのだけど、項垂れるように落ち込まれて結局お願いする事になってしまったのだ。
恥ずかしいわ、申し訳無いわで今度は私が項垂れた。
「お館様も心配している。早く治す事だけを考えればいい」
「そう、ですよね…」
ため息まじりに頷けば、義勇さんが優しく髪を撫でてくれる。
義勇さんは前から言葉の代わりに行動で示してくれていたんだなと感じる事が多くなった。
こうして頭を撫でてくれるのも、目を細めて笑い掛けてくれるのも付き合ってからのものでは無い。
告白される前から、ずっと私を大切にしてくれていたんだと思うと心臓がぎゅうっとなる。
そんな事を考えていると、いつの間にか身体を拭いてくれていた筈の義勇さんの手が私のお腹に周り首筋にチクリとした痛みが走った。
「え!?」
「……ふ」
「ちょっ、今何したんですか?何か凄い過去に憶えのある痛みだったんですけど!」
「月陽が申し訳無さそうにするから、礼を貰った」
「もぉぉー!何でそんな事するんですか!!アレって結構消えないんですからね…いてて」
思わず大きく動いてしまった私は肋を抑えながら肩越しに義勇さんを睨み付けた。
本人は気にした様子もなく、つけたての跡を見つめている。
「義勇さん」
「なんだ?」
「義勇さんって、私のどこを好きになったんです?」
付き合ってからと言うもの、気になっていた事を口に出す。
仕返しとか思ってない、全然。
「…分からない」
「わ、分からない…」
「気づいたら何もかも愛しいと思っていた」
「はぅっ!ごめんなさい、納得しました!もう結構です」
なんなら予想以上の倍返しを頂いたので、この話題は辞めにした。
しかし何時になったら私は夜着を着れるのだろう。そろそろ寒くなってきたなと思えば、義勇さんがそっと新しい薄桃色の夜着を着せてくれた。
「あれ?こんな服ありましたっけ」
「買ってきた」
「え、どうして…」
「……月陽の気分が少しでも変わればいいと思った」
余り肋を刺激しないように夜着の袖を通してくれながら義勇さんがぽつりと呟いた。
いつの間に買ってくれていたのだろう。
些細な気遣いにまた胸が締め付けられる。こんなに優しくしてもらって、愛してもらってなんて私は幸せ者なんだろうと思う。
「ありがとうございます」
義勇さんの顔を見てお礼を言えば返事の代わりに額へ口づけしてくれた。
←→