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義勇さんと恋仲になった。
恋仲になったのはいいのだけど。


「ん、んぅ…ぎゆ、さんっ!」

「…ん、」


朝ご飯を作る為に義勇さんの腕を外そうと思ったら、寝惚けた様子でしつこい程の口付けをされてる。
前々から寝起きが良い方では無かったけど、これ最悪酸欠で気を失う勢いなんじゃないだろうか。

半分起き上がっていたはずの私の事も体は布団に押し付けられている。


「も、もうっ!無理っ!!」

「……はっ」


失礼承知で義勇さんの硬いお腹を足で少し蹴り上げた。
これ以上は色んな意味で気絶してしまう。

昨日恋仲になったばかりでこれじゃあ私の身が持たない。


「起きましたか?」

「……あぁ」

「じゃあ横にどいて下さい!私、ご飯の準備があるので」

「すまない」


しょんぼりという効果音が似合うように布団で正座した義勇さんにちょっとだけ罪悪感が込み上げた。
いや、だからと言ってあのまま許容出来るかは別の話だが。


「怒っていないので、そうしょんぼりしないで下さい。義勇さんがいつから私を想ってくれていたかは知りませんが、たくさん我慢させてしまったのは自覚してますから」

「…そうか」

「だからお顔と手を洗ったら少し待ってて下さいね。すぐに準備するので」

「月陽」


少し乱れてしまっていた義勇さんの寝間着を整えてあげると、いつもの顔に戻った様子に安心して立ち上がろうとすると手を取られて引き止められた。

もう一度と言われるのだろうかと思いながら首を傾げる。


「おはよう」

「…はい、おはようございます!」


はにかんだ笑顔でおはようの挨拶をしてくれた義勇さんに私もつられて笑った。
義勇さんの、当たり前の事をしてくれる所が私は好きだ。
ご飯を食べる時も、帰ってきた時もいつも欠かさず挨拶をしてくれている。

義勇さんを育ててくれた人は礼を欠かさない人だったんだろう。
私の父さんや母さんも珠世さんも、礼節を重んじる人だった。

それから私がご飯の準備をしている間、火を起こしてくれた義勇さんは鍛錬をしながら待っていてくれる。


もう時間は昼近くだし、さっぱりとした味付けでお腹にたまるものにした。

食事が終わる頃庭に居たかー君が任務を告げる声が上がる。


「月陽、義勇!ココカラ北西ノ山ニテ下弦ノ鬼出没トノ知ラセ!!準備ガ出来次第ソコヘ迎エ!」

「また下弦ですか。補充が早いですね」

「食器は洗っておくから準備をしてくるといい」

「すみません、よろしくお願いします!」


鍛錬をした後義勇さんは隊服に着替えていたので、まだ私服だった私は部屋へ戻って出立の準備を始める。
義勇さんとの関係は変わっても、私達の日常は変わらない。

鬼舞辻無惨を倒すまで私達はひたすら鬼を斬るのみなのだ。

両親の形見に挨拶をして、2つの日輪刀を腰に差し部屋を出る。


「義勇さん、食器ありがとうございます。お待たせしました」


洗い物が終わった義勇さんが玄関で待ってくれていたので自分の靴を履いて無言で頷いた背中を追う。
私が生きる理由も、強くならなきゃいけない理由もまた一つ増えた。

だから、人々の生活を脅かす鬼は倒さなきゃいけない。



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