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「むーいちろー!」


あの後、結局私がぎくしゃくしたまま夜が明けて約束していた無一郎との任務に出掛ける為起きてすぐ義勇さんの屋敷を出てきた。
勿論寝惚けてた義勇さんにいってきますの挨拶も昼食も用意して。


「…あっ、月陽!」

「うん、久し振り」

「久し振り。会いたかった」

「よしよし、可愛いね無一郎」


ぼーっと空を見上げていた無一郎に近付くと一瞬考える素振りを見せて、思い出したように私の名前を呼んでくれた。

あの事件をきっかけに現在も記憶が曖昧な無一郎は、一瞬忘れてはいるけど私の事はきちんと思い出してくれる。
お館様たちの事は毎日見ているから忘れないそうだ。


「きちんと休んでる?怪我が完治してないのに鍛錬してるって聞いたから心配したよ」

「俺は強くならないといけないから。月陽にも、あの…柱の…」

「冨岡義勇さんね」

「そう。その人にだって負けたくないから」


そう言った無一郎の手は白くてきれいなのに手の内側は血豆やら肉刺でガサガサしていた。
それをそっと包んで労るように撫でてあげる。気休めだけど、無一郎はこうした方がいい気がしたから。


「月陽の手は柔らかいね」

「そうかな」

「うん。気持ちいい」


包んだはずの私の手は無一郎の手に包まれむにむにと触られる。
その感触に何だか擽ったくて笑みが溢れた。


「ふふ。でもたまには休む事も必要だよ?どうしても鍛錬したくなるなら私が美味しい所連れてってあげる」

「ほんと?」

「うん、ほんと!」


一瞬義勇さんに反対されるかなと思ったけど、昨日の事を思い出して思考を無理矢理中断させた。
あの事はきちんと義勇さんと話す時に考えればいい。今は無一郎との任務だ。


「…月陽」

「んー?」

「行こう」


弄っていた手は無一郎に指を絡め取られて引っ張られた。
いつの間にかもう片方の腕に鴉を乗せている。
私はそれに頷いて一緒に歩き出した。この手の繋ぎ方はとも思ったけど、まだまだ無一郎は子供だし気にしない事にする。

愈史郎君は可愛い見た目だけど年は私より上だったし、弟が居たらこんな感じなのかもしれない。


「ねぇねぇ、僕月陽の型を見てみたい」

「鬼と会ったら使うよ」

「うん、楽しみにしてるね」


それから私達は途中でお昼ご飯を食べたり休憩をしながら指定された場所へ向かった。
夕暮れには鬼が出てくる可能性がある。
私達は警戒しながら人が歩いていないか確認しながら進んだ。


「月陽、あっちには人は居なかったよ」

「ありがとう。こっちも大丈夫そうだよ」

「なら後は俺達が鬼を殺すだけだね」


すらりと刀身を抜いて構えた無一郎に続いて私も柄に手を置いた。
何かがこちらへ駈けてくる気配が2つある。
無一郎の為と壱ノ型を使わずにいたけど、きちんと索敵もしているみたいで成長を感じた。

やはりお館様が勧誘するだけあって無一郎には鬼狩りの素質があったんだろう。
きっと、亡くなってしまった有一郎くんにも。


「鬼殺隊ィィイ!!」

「無一郎、行くよ」

「うん」


たまたま出会しただけの鬼が二体の姿が肉眼で確認できた。
理性を失くした様子は異能の鬼ではなさそうだ。

迎撃するよう私は腰を低くして一体の鬼の頸に集中する。


「月の呼吸、参ノ型…弥生!」

「綺麗な光…じゃあお礼に僕も月陽に成長した証拠見せなきゃだね」


私が片方の鬼の頸を飛ばすと虚ろ気な瞳に光を宿して、一体がやられた事によって腰が引けている鬼に向かって構えを取った。


「霞ノ呼吸、弐ノ型 八重霞」


無一郎は鬼との間合いを一瞬で詰めると八つ裂きにした。
体もバラバラになり、首も顔も切り刻まれぼとぼとと地に落ちる。

速さも強さも並の剣士とは桁違いだ。


「す、凄い…!凄いよ無一郎!かっこいい」

「そうかな」

「うん。たくさん鍛錬したんだね!」

「でもまだ足りないよ。俺は柱になるから、月陽の事守ってあげられるくらいに強くならなきゃ」

「ありがとう。頼もしいよ、無一郎」


刀を振り鞘へ納めた無一郎は自分の手を見つめながら握ったり開いたりしている。
この子の力は無限大なのかもしれない。
短時間でこんなにも成長して、きっとすぐに私の事も抜かしてしまうんだろう。

よしよしと無一郎の頭を撫でて消えた鬼の残骸を振り返る。
勝手に鬼にされ、私達によって斬られ跡形もなく灰となって消えるなんて。

口に出してはいけないと分かってるけど、少しだけ同情してしまう。
この人達にはこの人達の人生があっただろう。
鬼に壊される家族も居なかっただろう。

そっと無一郎の背中を押しながら心の中で手を合わせた。
来世では穏やかな暮らしをできるよう祈りながら。



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